知的生活と仕事のあり方

チャンドラーと村上春樹、書くこと

「ロング・グッドバイ」(早川書房)に、村上春樹が長大な「訳者あとがき」を書いている。その中でチャンドラーの手紙を引用し、書くことについてこう述べている。 うまく文章を書くことは、彼にとっての重要なモラルだった。彼はある手紙の中にこのように書き…

佐藤優の獄中での知的生活

「獄中記」(佐藤優著)を読書中。 拘置所内での生活は、中世の修道院のようです。中世の修道院や大学では、書籍は一冊しか所持することが認められず、それを完全に習得するか、書き写した後に次の本が与えられるシステムだったそうです。拘置所もそれにかなり…

講義には生命感が求められている

“ことば”の仕事作者: 仲俣暁生,大野純一出版社/メーカー: 原書房発売日: 2006/05メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 56回この商品を含むブログ (43件) を見る小熊英二インタビュー 何年間か教えてきてわかったことは、とくに学部の一年生などは、必ずしも…

佐藤優・獄中の知的生活

「新潮45」誌8月号「こんなに快適「小菅ヒルズライフ」」 私が収容されていた独房の両隣はいずれも確定死刑囚だったが、二人はどうしているのかと思うと、保釈され外界で、自由を拘束されずに生活をしている自分が生きている時間を無駄にしているのではない…

数学者エルデシュ

粗末なスーツケースひとつと、ブダペストにある大型百貨店セントラム・アルハズの、くすんだオレンジ色のビニール袋ひとつで暮らしをまかなっていた。すぐれた数学の問題と新たな才能を探す終わりのない旅を続けながら、エルデシュは四大陸を驚異的なペース…

村上春樹の生活: 仕事は朝

意味がなければスイングはない作者: 村上春樹出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2005/11/25メディア: 単行本購入: 11人 クリック: 194回この商品を含むブログ (197件) を見る 二ヶ月ばかり日本を離れて、外国のとある僻地にこもってこつこつと小説を書いてい…

入江昭「歴史を学ぶということ」

歴史を学ぶということ作者: 入江昭出版社/メーカー: 講談社発売日: 2005/10/19メディア: 新書購入: 7人 クリック: 54回この商品を含むブログ (33件) を見る そもそもイギリス人でもない自分に、英国の歴史を研究することなどが可能だろうか。先生の言葉は次…

虚と実

わが友マキアヴェッリ―フィレンツェ存亡 (塩野七生ルネサンス著作集)作者: 塩野七生出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2001/10/01メディア: 単行本 クリック: 21回この商品を含むブログ (36件) を見る ダンテも同じだが、マキアヴェッリも、人生を文人として出…

無為と待機

数日前、たまたまペアプログラミングの話をいろいろ読んでいて、ふと「ぐずぐすして何もしないでいられる時間」の「価値」を思って、堀江敏幸「河岸忘日抄」を紹介した。河岸忘日抄作者: 堀江敏幸出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2005/02/26メディア: 単行本…

白川静

日経新聞3/27/05より 研究ぶりは高橋和己著『わが解体』(河出文庫)でも紹介されている。「S教授の研究室は(中略)紛争の期間中、(中略)それまでと全く同様、午後十一時まで煌々と電気がついていて、地味な研究に励まれ続けていた。 (略) 四月に九十五回目の誕…

Stephen Kingの文章作法

Everything You Need to Know About Writing Successfully: in Ten Minutes by Stephen King http://www.icestormcity.com/rumble/king.html Sotto Voce 2/7/05 "Blink" and Super Bowl & Stephen King http://naotakeblog.typepad.com/sottovoce/2005/02/bl…

ドラッカー「私の履歴書」

日経 2/1/05 第一回 仕事以外では、毎年新しいテーマを見つけ、三カ月間かけて集中的に勉強している。昨年は明王朝時代の中国美術に取り組んだ。(略) このほか、三年ごとのプロジェクトも立てている。数年前に終えたのは、シェークスピアの全集をゆっくりと…

一日に書く分量

スティーブン・キングの場合 On Writing作者: Stephen King出版社/メーカー: Pocket Books発売日: 2002/06/25メディア: マスマーケット購入: 3人 クリック: 10回この商品を含むブログ (4件) を見る I like to get ten pages a day, which amounts to 2,000 w…

エクストリームリーディングのノウハウ

PICSY blog 1/14/05 http://blog.picsy.org/archives/000192.html 【やり方】 ・日本語だと5ページ単位、英語なら2ページ単位くらいを全員が黙々と読みます。単位が節ごとなど、本の著者が設定した単位であるほうが好ましいです。読み始める前に、ここまで…

eXtreme Reading

picsy blog 1/7/05 エクストリームリーディング http://blog.picsy.org/archives/000190.html 1月3日からVarelaの"Principles of Biological Autonomy"を3日間連続でひたすら一日中(10時間くらい)読み続けるという勉強会を駒場でやった。目下のところ…

清水徹「吉田健一の時間 黄昏の優雅」

たぶん吉田健一は「青春」という言葉を使ったことがない。「ぶざまと言へば、人間の若い頃といふもの程ぶざまなものはない」とか「早く年取ることが出来ればとよく思つたものだつた」というような言葉が、著書のあちらこちらに見つかる。彼の考え方によれば…

辻邦生「外国文学の愉しみ」

外国文学の愉しみ (レグルス文庫) 没頭して読みふけった本は「それを読んでいたときの天候、早く吹いていた風だとか、照っていた陽ざしだとかを含んでいる」とプルーストふうに言うとすれば、私のなかの「失われた時を求めて」は、パリの国立図書館の、前世…

若島正「乱視読者の新冒険」

要するに、わたしは約束事の決まっている探偵小説の読み方なら知っていたが、なんのルールもない普通の小説はどう読んだらいいのかまだ知らなかったのだ。今のわたしだと、探偵小説を読むように普通の小説も読めばいいとわかっている。つまり、小さな細部が…

堀江敏幸

中央公論 11/04 文学的近況 雪国の奇蹟 日々の反復のなかで蓄積されたなにかが偶然の作用でとろとろと溶け出し、受け身が結果として積極的な意味を持ちうる無意識のトランスになりたいとつねづね願っている私は、こういう状況になるともはや断ることができな…

和田宏「司馬遼太郎という人」

「アメリカ素描」よりずっといいものでした。綿密で、情念がすきまなく入っていて。(自分でいうんです!)。その理由は自分でもわかっています。小生は半世紀を十年も(もう二年プラス)越したとしになって、そろそろこの世に失敬しなければならないとしになって…

齋藤孝「座右の諭吉」

この他にも福沢がやり始めたことは多い。それについての自負がないわけではないが、彼は自分がオリジナルだと主張するような独自性にはほとんど無関心だった。(略) そこはゲーテと近いところがある。ゲーテは独創性やオリジナリティにこだわることに否定的だ…

阿川尚之「憲法で読むアメリカ史」: 教えることと書くことと学ぶこと

ロースクールを卒業して以来、アメリカ憲法の勉強はほとんどすべて独学で、いつかもう一度きちんと学んでみたいと思っていた。(略) のんびりしたアメリカでの大学での生活が気に入って、帰国してからもアメリカ憲法を勉強し続け、また教えてみたいと思った。…

中野孝次の人生

著者に会いたい「中野孝次」 「60歳になったら閑暇の生活に入れ」を15年前倒しにして、それからの30余年を淡々と過ごし、 「僕は今年七十八歳になった。(略) その長い一生を思い返してみて、本当にいま自分のものとして残っているのは、若い時から好き…

村上春樹のスタイル

僕は2002年10月29日の日記にこんなことを書いた。

「モンテーニュ私記 よく生き、よく死ぬために」(保苅瑞穂著)

著者は「エセー」p784から「私はいっさいの努力を傾けて自分の生活を作って来たのです。それが私の仕事であり、作品なのです。私はほかのどんな仕事の作り手でもありませんが、それ以上に本の作り手ではないのです。」という部分などを引用して、こう書く。 …

小林秀雄の「近代絵画」について

小林秀雄全作品22「近代絵画」・巻末の中村光夫「小林秀雄論」 氏はこの三百頁の書物を一冊書くために、あしかけ五年の歳月を費し、その間ほかの仕事はほとんどしませんでした。 「モオツァルト」や「ゴッホの手紙」は、氏自身が気付いている「悪条件」のな…

森有正

森有正「生きることと考えること」 きわめてあたりまえのことですが、自分を越えた、他のものを探求していっても、結果としては、それは自分自身の探求になるわけです。フランス人というのは何かを求めていますが、その何かとは、自分自身なのです。それはモ…

寡作

水村美苗『本格小説(上・下)』特別インタビュー 私は作家になったのが遅く、だらだらと無駄な人生を歩んできた、小説の執筆に役立たない捨て札ばかりの人生を歩んできた、とずっとそう思っていたんです。それが『本格小説』を書いているうちに、捨て札があ…

発酵

森有正エッセイ集成1所収「流れのほとりにて」より そして今僕の心には、アンリ・ファーブルの言葉がしきりにきこえて来る。「私の生涯は殆んど全部、特に最後の三十年間というものは、絶対的隠退と完全な沈黙との中に過されたからである」(ルグロ著「ファー…

若島正

若島正「乱視読者の帰還」あとがき 十歳のころ、詰将棋という麻薬にとりつかれた。二十歳くらいまでは、数学に熱中し、数学者になることだけを夢見ていた。二十歳のころに、初めてペーパーバックで小説を読むおもしろさを知った。さらに三十歳のころ、ナボコ…