小林秀雄の「近代絵画」について

小林秀雄全作品22「近代絵画」・巻末の中村光夫小林秀雄論」

氏はこの三百頁の書物を一冊書くために、あしかけ五年の歳月を費し、その間ほかの仕事はほとんどしませんでした。

「モオツァルト」や「ゴッホの手紙」は、氏自身が気付いている「悪条件」のなかで敢行された試みでしたが、「近代絵画」は氏がはじめて、好条件にめぐまれて、存分に腕を揮った作品と云えます。

極端な云い方をすれば、氏がここで書きたかったことの核心は彼等の作品を前にして見た白日夢にすぎないのです。