森有正

森有正「生きることと考えること」

きわめてあたりまえのことですが、自分を越えた、他のものを探求していっても、結果としては、それは自分自身の探求になるわけです。フランス人というのは何かを求めていますが、その何かとは、自分自身なのです。それはモンテーニュデカルト以来の伝統でもあって、どこまでも出かけていくけれども、結局は自分に帰ってくるためだ、ということです。そしてこれは、フランスの思想というものの、ひじょうに大きな形だと思います。(p65)

まず仕事とか研究とか、そういうことと、ごく基本的な生きることとか感覚するとかいうことの関係について、私の態度というか、私がどうしようとしているか、ということを簡単にいうならば、私はそういうものを、一つのもの、一元的なものにするのが大きな目的なのです。デカルトの研究でも、パスカルの研究でも、哲学の研究でも、あるいは語学の研究でも、そういうものが自分の生きるということから離れた、独立した、ただそれだけが宙に浮いたようなことになるのを極力避けたいと思っている。(p189)