清水徹「吉田健一の時間 黄昏の優雅」

吉田健一の時間―黄昏の優雅

たぶん吉田健一は「青春」という言葉を使ったことがない。「ぶざまと言へば、人間の若い頃といふもの程ぶざまなものはない」とか「早く年取ることが出来ればとよく思つたものだつた」というような言葉が、著書のあちらこちらに見つかる。彼の考え方によれば、「人間には成熟すること自体の他に目的がない。それは人間であるから人間になることであつてそれが簡単なことでないから若いうちといふのが長い間続く」。それゆえに彼は秋と黄昏を愛した。(p177)