若島正

若島正「乱視読者の帰還」あとがき

十歳のころ、詰将棋という麻薬にとりつかれた。二十歳くらいまでは、数学に熱中し、数学者になることだけを夢見ていた。二十歳のころに、初めてペーパーバックで小説を読むおもしろさを知った。さらに三十歳のころ、ナボコフに出会い、それから次第に世界がナボコフ色に染まっていくのを体験した。四十歳のころに、詰将棋からチェス・プロブレムに転向し、すっかり深入りして足が抜けなくなった。そして五十歳にもうすぐ手が届くという今、気がついてみると、わたしの世界はナボコフとチェス・プロブレムだけになっていた。それはそれで仕方のないことだと思う。