この半年のこと、お知らせ、お詫び、諸々。

あっと言う間の半年だったなという気がする。その間、ほとんどこのブログの更新もできなかったが、じつは本当に忙しかったのだ。忙しかった理由は二つある。
一つは、本を書いていた、からである。
約一年前に「モノを書くことについてのサバティカル」に入り、充電のための時間を作ろうとしたのだが、さまざまな偶然や勝負の帰趨に誘(いざな)われて、昨年六月、将棋のタイトル戦(棋聖戦)のウェブ観戦記を初めて書き、それがきっかけとなって、それからの膨大な時間を「将棋を観る」こと、「棋士と過ごす」ことに費やすことになった。そしてそれが、僕にとっては、何にも代え難い「真の充電」以上の経験になったのだから、人生は予想できないものだと思う。昨年十月には、パリまで出かけて、竜王戦第一局のウェブ観戦記も書いた。
羽生善治名人(四冠)、佐藤康光棋王深浦康市王位、渡辺明竜王。2008年に将棋界の七タイトルを分け合った四人のトッププロたる最高の将棋知性と、公私ともに深く付き合うことで、「超一流とは何か」ということを考え続ける機会を得たことは、本当に僥倖であった。
そんな経験のすべてを盛り込んで、

シリコンバレーから将棋を観る――羽生善治と現代」
   (中央公論新社、4月25日刊)

という本を書いていたのでした。
僕が経験した素晴らしいことの数々を、なんとか将棋に詳しくない人たちにも伝えたいと思い、ベストを尽くした。もちろん将棋について書いた本だから、基本的には将棋好きの人が読む本ではある。ただ、シリコンバレーやネットに縁のないたくさんの人が「ウェブ進化論」を手に取ってくださったように、将棋から遠ざかっていた人、将棋に縁のなかった人が、この本を手に取って、羽生さんをはじめとする超一流棋士の在りようから何かを得たり、将棋の世界に興味を持ったりしていただければ嬉しい限りだ。
一月に東京で行った羽生名人との対談(約50ページ)も、最終章に収録される。発売は今から一ヶ月後の4月25日に決まった。詳しくは、もう少し発売が近くなったところで、また書くことにします。


忙しかったもう一つの理由は、言うまでもなく、半年前に始まった世界経済危機の影響による。僕の本業であるMUSE Associatesの顧客は、日本のIT関連企業の特に製造業が多く、2008年度上期と下期は、天国と地獄と言ってもいいくらい経営環境が激変した。そんなこともあって、とにかくこの半年は考えなければならないことが多く(目先に何をすればいいかはこういう時期はかえってわかりやすくなるのだが、限られた資源を投資して十年先のためにいま何をすべきかはより難しい問題になる)、忙しい毎日が続いていた。
シリコンバレーにやってきたのが1994年11月で、そろそろ14年半が経過するわけだが、以来、日本との往復は年に平均7回くらい、それぞれ日本滞在期間は7-9日で、その間は早朝から夜の会食まで予定をぎちぎちに入れても何とか体が持つ、という経験的前提でやってきた。きちんと数えてはいないが、そろそろそんな激しい出張も100回を超えたかなと思った矢先の二週間前、日本出張の途中で、ついに具合が悪くなってダウンしてしまった。
地方に出かけていたときの昼ごろに、熱がぐんぐん上がって39度近くなり、喉の痛みが激しくなって食事もできなくなったので、近くの病院に行って(僕は日本の保険がなく、全額自費で病院にかかるのも初めてのことだった)、インフルエンザの検査をして(陰性)、解熱剤をもらい、予定を変更して、東京に戻った。以来五日間、公私ともに大切な約束をぜんぶキャンセルして、ホテルで寝ていなければならなくなった(東京の病院で扁桃炎と咳喘息と診断された)。「ウェブ人間論」以来お互いに考えてきたことを久しぶりに話そうという、本当に楽しみにしていた平野啓一郎さんとの夕食の約束も、ドタキャンしなくちゃいけなくなってしまって痛恨の極み。
プロとして恥ずかしい限りなのだが、34歳のときからずっとできていたことが、48歳ではできなくなるということは、当然ながらあるなとしみじみ思いながら、ただただ一人でじっとしていた。ホテルで寝ていたときは、一昨日アップしたJTPAカンファレンスでの講演も、その前日に丸一日かけてやった参加者との1時間半ずつのディスカッションもできなくなってしまうかなあ、と申し訳なく残念な気持ちでいたのだが、幸いなことに帰国直前になって、「完全に治ってはいないけれど仕事(夜の部はだめ)をしてもいいよ」と医者から言われたので、いくつか仕事をこなして、帰国した。
JTPAカンファレンスまでは何とか乗り切りたいと思い、それは何とかできて良かったが、さすがに、夜の部の懇親会までは体が持たないので、欠席して、家で寝ていた。今もまだ完全に治っておらず、参ったなあ、というのが正直なところ。
四月からの新年度は、少し自分の年齢に合わせた体調管理の仕方、仕事の仕方に変えていかなければならないなと、自戒しているところです。ずいぶんいろいろなことを断ってもいるのだけれど、なかなか難しいものです。
これからのことはさておき、このたびご迷惑をおかけしてしまった皆さまに、改めてこの場を借りてお詫び申し上げます。二度とこういうことが起きないように調整したいと思います。
あと、ブログの更新がなくてさびしいという声を、最近いろいろなところで聞くので、ぼつぼつ更新を再開していこうとは思っています。
ちなみにジャックは、おかげさまで元気です。ジャック13歳のお祝いのコメントやメール、ありがとうございました。