毎日新聞夕刊「ダブルクリック」欄・第七回「発明への眼差し」
毎日新聞火曜日夕刊コラム欄の第七回です。
米タイム誌が「今年の発明」に動画投稿サイトのユーチューブを選んだ。「同誌は、今年はユーチューブほど『世界を変えた』発明はないと指摘。ユーチューブは多くの人々に楽しみ、教育、ショックを与える新しい方法を未曽有の規模で実現したと述べた。」本紙(六日夕刊)もこう報じた。
ユーチューブのビジョンは「ブロードキャスト・ユアセルフ(あなた自身を放映しよう)」。誰もが自由に自分が撮影した映像を投稿し、多くの人々に視聴される可能性が開かれた。米タイム誌は、映像表現の新しい文化が生まれたことを「発明」として高く評価したのだ。
しかしユーチューブの利用者は、テレビ番組等から録画した映像の断片をもどんどん投稿することができる。日本の報道ではこの部分が特に強調される。日本からも大量の映像が著作権者に無断で流れ込んでいる。ユーチューブでは投稿における入り口の規制はせず、違法映像でも著作権者からの侵害申し立てがあるまでは削除されない。そんなグレイなところがあるために爆発的人気につながったのも事実である。
ユーチューブのようなサービスがもし日本から生まれていたとして、果たして日本の老舗メディアが「今年の発明」に選ぶことなんてあるだろうか。そんなことをちょっと考えてみてほしい。まずあり得ないだろう。
仕事柄よく「日本から○○のような新しいものが生まれないのはなぜだと思うか」と問われる。新しい発明には、既存の社会の枠組みを脅かす要素が含まれることが多い。「そういう新しさを若者たちが発明したとき、大人たちがおっちょこちょいにも一緒になって面白がり、奨励できるかどうか。そういう空気の質が、日米ではぜんぜん違うんですよ」と僕はいつも答えるのだ。
(毎日新聞2006年11月14日夕刊)