小室直樹の思索をたどる勉強

山本七平「勤勉の哲学」

勤勉の哲学―日本人を動かす原理 (PHP文庫 ヤ 2-1)

勤勉の哲学―日本人を動かす原理 (PHP文庫 ヤ 2-1)

に80ページ以上に及ぶ小室直樹の名解説が書かれていたことは、「山本七平の日本人論」
http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20050602/p1
で触れた。「勤勉の哲学」は1979年に、小室による解説は1984年に書かれた。その後の小室直樹の著作を引っ張り出して眺めてみたら、この「勤勉の哲学」の解説が、10年以上経過した後に変奏されていた。まずは1997年に書かれた「小室直樹の資本主義原論」
小室直樹の資本主義原論

小室直樹の資本主義原論

である。そして2000年に書かれた「資本主義のための革新(イノベーション)」
小室直樹 経済ゼミナール 資本主義のための革新

小室直樹 経済ゼミナール 資本主義のための革新

で、最後が2004年に書かれた「経済学をめぐる巨匠たち」
経済学をめぐる巨匠たち (Kei BOOKS)

経済学をめぐる巨匠たち (Kei BOOKS)

だ。この「経済学をめぐる巨匠たち」だけは手に入りやすいみたいなので、是非お薦めしておきたい。ここで挙げた本は、こういうふうに社会や経済のことを教わることができたらさぞかし面白かったろうな、という知的興奮に満ちた本ばかりである。
僕は一冊の教科書をじっくり通して読んで勉強するよりも、たくさんの本をあれこれとつまみ食いしながら考えるのが好きなので、これらの本に加えて、「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」(ヴェーバー)
プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)

大塚久雄による解説(1988年に書かれたもの)、山本七平「日本資本主義の精神」
日本資本主義の精神―なぜ、一生懸命働くのか (PHP文庫)

日本資本主義の精神―なぜ、一生懸命働くのか (PHP文庫)

と、大塚久雄「欧州経済史」
欧州経済史 (岩波現代文庫)

欧州経済史 (岩波現代文庫)

を副読本として勉強中。
専門家に笑われるのを覚悟でなぜ僕がこんなことを書いているかと言えば、このダイアリーの主要読者たる「二十代・理系・IT好き」の人たちで、文系の勉強なんてきちんとしてこなかった人たちと、今僕が遅ればせながら勉強していることくらいは、是非共有したいと強く思ったからだ。
小室直樹による「勤勉の哲学」解説には、日本が上り坂にあった約20年前に「日本はなぜ強いか」(そして実はその強さの源泉が内包している矛盾)を解き明かすという問題意識が見える。そして1997年に書かれた「小室直樹の資本主義原論」では、逆に一気に「官僚国家日本がなぜダメなのか」という問題意識に変わり、そして1999年以降の問題意識は「イノベーションこそが日本を救う」という問題意識に変わってきているように思う。それぞれの本で解説されている社会や経済や日本についての道理については、山本七平の「勤勉の哲学」や「日本資本主義の精神」、ヴェーバーやその大塚久雄による解説などが底流にあって、その道理をそのときどきの日本に照射して考えるという形でわかりやすく書かれている。
僕は、2000年以降の日本には、「古い日本」と並立する形で「新しい日本」が生まれつつあり、それが1975年生まれ以降の若い世代の日本人たちによってこれから大きく繁栄してほしいし、縁があって関わることになったはてなという会社もその一翼を担ってほしいと思っている。でも、いくら「新しい日本」って言ったって、日本のこれまでと連続している。しかも、この20年で「日本の強さ」と讃えられていたものがそのまま弱さに転じてしまったようにも見えるが、底流を流れている日本人のあり方は、そんなに短期的に変わるものではなかろう。「新しい日本」において、再び強みに転じ得る日本人の本質って何なんだろう。
いやこのエントリーに何も結論もない。そんなことを考えることに興味のある人は、是非、小室直樹の上掲の本の一冊と、その他本エントリーでご紹介した本の中から面白そうだなと思ったものを是非読んでみてほしい、ということだけ。
僕もおいおい、勉強しつつ考えたことを、これからそういうことを考えていく上での補助線のような意味で、このダイアリーで書くようにしたいと思う。

IBMとゲーム

アップルがチップをIBMからインテルに移すことが大きな話題になっているが、その背景に「PCはインテルに明け渡してもいいからゲームに移行する」という方向をIBMが打ち出している点にはきちんと注目しておくべきだ。「ゲーム素人のための米ゲーム産業入門」
http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20050519/p1
でもこう書いた

三社のゲーム機のプロセッサはどれもIBMが開発している(PS3は3社連合)。「IBM scored a hat trick by developing processors for all three of the next-generation consoles, so no matter which one wins, IBM wins.」

ように、次世代ゲーム機のチップはIBMが押さえようとしている。そこで今日はForbes誌コラムニストRich Karlgaardの「Why IBM Should Buy Electronic Arts
http://www.forbes.com/technology/free_forbes/2005/0620/041.html
を読んでみよう。彼の文章はいつも半分冗談の中に何か考えさせるポイントを入れていて面白い。十年先を考えるにはこういう遊び心がいつも必要だ。タイトルの「IBMはEA(ゲームソフト会社)を買うべきだ」というのは、最後の締めの文章でやっと出てくる半分冗談なのだが、このコラム全体は要約すればこんな感じになる。

  • 最先端半導体開発競争の舞台はPCからゲームに移った。
  • コンピュータ産業史をひもとけば、
    • 60年代がIBM360(メインフレーム)
    • 70年代がDECとDG(ミニコン)
    • 80年代がSunとApollo(ワークステーション)
    • 90年代がIntel(PC)
    • 今はGoogleIntelベースのCheap Serverを自作して世界を席捲しているけれど、ここで進化は止まるのであろうか? 「いやそんなことはない」(But the evolution hasn't stopped. It never will.)と言うのなら、候補はゲーム用チップかもしれないよな、そしてそれはIBMが独占しようとしている。
  • ところでエンタープライズソフトってこれからどうなるんだろう。ひょっとしたらゲームソフトみたいになるんじゃない?
  • もうそうならば、ゲームのチップを独占しようとするIBMは、エンタープライズ・ソフト事業の一環ということも含めて、ゲームソフトのElectronic Artsも買ったらどうなの?

原文にあたると、エンタープライズソフトがこれからゲームみたいになっていく理由も書かれています。その中には僕のようなメジャーリーグ好きにはわくわくするような話が出てくる。アリーグ随一の左腕、ツインズのヨハン・サンタナ投手は、相手チームの打者についての研究を「Playstation Baseball」でやっているんだって!!!
半分冗談の思考実験として楽しんでみてください。

何でもオープンにすることについて

はてなでは開発合宿が恒例になっている。合宿という意味にもいろいろあるが、かなり厳しい「体育会の選手の合宿」という意味が近いように、横で見ていて思う。しかし合宿から帰ってきて「合宿で作りました」と書きつつ、
http://d.hatena.ne.jp/jkondo/20050609/1118312703
http://d.hatena.ne.jp/higepon/20050609#1118316773
http://d.hatena.ne.jp/naoya/20050609/1118324303

さて、今日は二つほど大きな update をしました。1つははてなアイデアの株式市場化、それからははてなブックマークのデザイン編集機能とかモジュールとかもろもろ。これらは二つとも合宿で仕上げました。
イデアid:jkondo が、ブックマークは僕がそれぞれ3日篭って仕上げました。アイデアは証券市場を模倣するだけに、さまざまな計算要素が入ってきて結構実装が大変そうでした。id:jkondo は、そのときその株を持っている人全員から価格を聞いてほげほげみたいな処理をするのに「Visitor パターンが...」とかぶつぶつ言いながらしかめ面でコーディングしていました。
一方の僕は、デザイン編集機能。まずは HTML マークアップを改善するところから始めて、そのマークアップに併せてデフォルトのスタイルを定義し直し、かつ XSS 脆弱性を出さないようにヘッダ、フッタ、スタイルシートの編集機能を乗っけつつ、いくつかのモジュールを用意してプレビュー機能を載せる。それからこの辺の機能に伴うバグをいくつか修正し、タグ一覧の表示に新しいアルゴリズムを加える。すでに他のサービスで一度はやったことがあってある程度は使いまわしができたとは言え、これ全部をやるとなると相当な分量でした。平日のオフィスで3日じゃ、無理だなあ、合宿効果はすごいなとあらためて実感しました。(ちなみに UNIX USER の次の記事も合宿中の早朝と晩に書き上げました。)
あれ、まだ id:jkondo と僕しか登場してませんね。id:higepon 含め、もう何人かも一緒にいってたわけで。ということで、まだもう一つか二つ、近々リリースできると思いますのでお楽しみに。(naoya)

なんて、合宿から帰った翌日に新しい機能をリリースしている。
http://hatena.g.hatena.ne.jp/hatenaidea/20050609/1118308022
http://hatena.g.hatena.ne.jp/hatenabookmark/20050609/1118307710
こういう重要な内部事情をどんどん外に向けてオープンにしていく発想が、はてなのユニークネスの中で最も不思議なところである。これは容易に真似できることではない。ある種の狂気と言ってもいい。
だいたいなぁ、ある機能を実装するのにどれだけ工数がかかったのかというようなことは秘匿すべき内容だ、というのが旧来型の常識なんだよ。
読んでいてはらはらする。
それが正直なところである。
でもそれは、そう骨髄反射してしまう僕のほうが古臭くて間違っているのだ、とあるときから考えることにした。
ゼロベースで考えたときに、こうした重要な情報をコミュニティに向けてオープンに開示していくことによって生まれるプラス(競争者等に対しても自然に開示されることによるマイナス分を差し引いたプラス)と、大抵の情報は「何でもかんでも秘匿しておけばとりあえず問題なかろう」(大企業は全部そういう考え方をする)と皆が自己規定することで情報が全く流通・発展していかないマイナスを天秤にかけたとき、トータルで見たときにプラスのほうがずっと大きい(インターネットの時代には特にそれが際立つ)と近藤は考えているわけだ。「近藤のこの世界観は誤っている」が現代の常識である。ただ「そのときどきの常識が未来永劫正しいとは限らない」は歴史が証明するところでもある。でも常識にただ挑戦すればいいってもんでもない。そこがベンチャー創造の面白くも難しいところなのである。
とまぁ、僕もはてなの皆に刺激されて、「こういうことは社内Blogで書くべきことなのかなぁ」と自問するような内容をあえてここで書いてみました。

ブックマークにカレンダーつけました

はてなブックマークにデザイン編集機能がつきました
http://hatena.g.hatena.ne.jp/hatenabookmark/20050609/1118307710
が、僕のブックマーク(「英語で読むITトレンド」は本ダイアリーとブックマークがセットになっているものと考えてください)
http://b.hatena.ne.jp/umedamochio/
では、見た目を変えるデザイン編集は後回しにして、実質的な意味を持つ機能「カレンダーモジュールの追加」をフッター部分に行いました。
「超・整理法」でも提唱されていたことですが、整理対象は時系列に並べるのが有効です。ただこれまでのはてなブックマークの欠点は「x月y日あたり」のブックマークにいきなりたどりつく機能がなかったこと。その欠点が今回のバージョンアップで解消しました。
これで過去に遡ってのタグ付けがずいぶんやりやすくなりました。