毎日新聞夕刊「ダブルクリック」欄・第五回「松坂投手の挑戦」

毎日新聞火曜日夕刊コラム欄の第五回です。
ちょうど新聞掲載日が松坂の記者会見(11月1日)の前日だとわかったので、メジャーリーグ・ファンとしては何か書きたくなって、こんな文章を書きました。
シアトル・マリナーズが早々に入札価格の高騰から入札をおりてしまったので「空振り」って感じの文章になってしまいましたが、最後にどんでん返しで松坂の行き先が、老舗球団ボストン・レッドソックスに決まってびっくり。「たった一人の日本人」として大活躍してほしいものです。来年の楽しみがひとつ増えて嬉しくて仕方ありません。

メジャーリーグ移籍が確実になった西武の松坂大輔投手は、シアトル・マリナーズに行きたいのだろうか。
筆頭オーナーは任天堂米国法人、イチローの存在感がチーム内に大きく、マスクをかぶるのは城島健司というマリナーズは、「メジャーリーグの中の日本」である。
複数球団で活躍した長谷川滋利が著書『超一流じゃなくても「成功」できる』(新潮社)で、マリナーズについてこう書いている。「シアトルに移籍してからは英語で話す必要がガクンと減った。クラブハウスでもコミュニケーションの多くは日本語で行われているのだった。ある意味、シアトルのクラブハウスでは英語とスペイン語、そして日本語が公用語になっていた。(中略) アメリカにもこんなところがあるんだ、というのが僕の感想だった。シアトルでプレイしていると、あまりアメリカでプレイしているという感覚がなかった。」
長谷川は昨年オフに引退したので城島とはバッテリーを組んでいない。でも松坂がマリナーズに行った場合、マウンド上での捕手との会話も日本語でできてしまう環境が用意されている。
超一流日本人選手がシアトルに集結し「日本力」を見せ付けてメジャーを席捲するのも見てみたいが、松坂大輔という稀代の名投手が「たった一人の日本人」として「個の実力」を発揮し、ボストン・レッドソックスやサンフランシスコ・ジャンアンツのような老舗球団のエースとして活躍する姿にも捨てがたい魅力がある。
松坂はメジャー移籍にあたって、どちらの挑戦により大きな魅力を感じているのだろうか。ポスティング・システム(入札制度)ゆえ松坂に移籍先の選択権はないが、マリナーズに行きたいのか否か、選べるものなら松坂に選ばせてみたい。
(毎日新聞2006年10月31日夕刊)