「しないことリスト」で考えてほしいこと
日経ビジネス・アソシエ2月19日号は、「できる人の「しないことリスト」」という特集だ。僕も常々「やめることを決める」大切さを主張しているので、興味を持って読んでみたのだが、非常に面白い発見をしたので、ここでご報告しておこう。
松本大(マネックス・ビーンズCEO)と川本裕子(早稲田大学教授)の「しないことリスト」を比べることで考えよう。
まず松本の「しないことリスト」は、
(1) よく分からない人とはつき合わない。
(2) 苦手な人とは食事しない。
(3) 中華料理を食べない。
(4) 風邪薬を飲まない。
(5) 大切なことを夜に判断しない。
(6) 悩みすぎない。
である。
では川本の「しないことリスト」はどうか。
(1) 夜の宴席には出席しない。
(2) ショッピングで迷わない。
(3) 表裏を作らない。
(4) テレビは見ない。
である。
こういう特集を一生懸命読む人は、「しないこと」をなかなか決めることができない人だと仮定する。自分はなかなか「やめること」が決められないなあと思っている人だと仮定する。
だとすれば、松本の「しないことリスト」は零点。そういう読者にとって、何の参考にもならない。一方、川本の「しないことリスト」はかなり点数が高いと思う。こちらから学ぶべきだ。
なぜか。
松本の(3)(4)は「独り言」のようなものなので除くとして、(1)(2)(5)(6)のすべてにおいて、判断基準が曖昧だからである。「よく分からない人」「苦手な人」「大切なこと」「悩みすぎ」はすべて、主観的であって客観的でない。たとえば、誰かが「よく分からない人」かどうか、の判断のところで「甘さ」が入ってしまえば(こういう特集のコア読者は、そういう判断の甘い人たちが多いから何事もやめられないという悩みを抱えている)、このルールは骨抜きになってしまい、いつまでも何も変わらない。
松本大はおそろしく能力の高い人間なので、ひょっとすると「しないことリスト」なんて本当はあんまり考えたことなどなく(何でもすぐにできてしまうから、じつは悩んだことなどない)、取材を受けて適当に思いついたことを話したのではないか、と勘ぐりたくなるほどである。
それに比べると川本裕子は、激しく働く二児の母として、「時間のやりくり」に悩み抜いて生きてきたからであろう、彼女の「しないことリスト」は切実だ。この特集の読者は、こちらを見習ったほうがいい。
何が違うか。それは自動的に「しないこと」が判断できるということだ。その都度、この人ならいいやとか、そういう曖昧な判断がいっさい入らないことが大切なのだ。
(1)夜の宴席には出席しない、(4)テレビは見ない
にそれが顕著だ。
妥協の余地がまったくない。相手が誰であろうと「夜の宴席」には行かない、番組によらずテレビは見ない、のだから、悩まず自動的に判断できる。だから必ず効果が出る。松本の「(2) 苦手な人とは食事しない」とは本質的にまったく違うというのが、おわかりいただけるだろうか。