ニューヨークのファン気質

この週末はメジャーリーグ観戦三昧だったが、地区シリーズの4カードのうち3つまでが「3-0」で一方的に終わってしまい、ちょっと拍子抜け(フィリーズワールドシリーズ進出という予想は、はずれ)。「インディアンス対ヤンキース」戦(2-1)でヤンキースがあと二つ勝って、アリーグは「レッドソックスヤンキース」の老舗対決。ナリーグは「ダイアモンドバックスロッキーズ」のフレッシュ対決になると、最後まで面白そうだ。しかしコロラド・ロッキーズの9月半ばからの「18勝1敗」っていうのは過去にない数字だろう。
横浜逍遥亭の「松井稼頭央の活躍」が面白かった。

ニューヨークはファンもマスコミも成績の悪い選手に容赦がない。松井がどんなによい選手でも、うまくアメリカに適合できるかはやってみなければ分からないし、もしうまくいかなかったら無茶苦茶に叩かれる。何を好きこのんでニューヨークに、と率直に思った。

たった一度だけ生で観たメッツのゲームでは、吉井が先発し、早々と5点を取られて2回だか3回だかに盛大なブーとともにマウンドを降りるのを目撃した。あのブーイングは、体験してみないと分からないと思うが、明るい禍々しさとでも言うべき、異次元の迫力がある。底意地の悪い非難ではない。しかし、万を超える人々の、猛烈に明々白々のメッセージが込められている。
「俺が楽しみにしてきた試合をぶちこわしにするな!」
そんな感じ。あるいは、
「ン百万ドルの給料をもらってんなら仕事をしろ!」
という感じ。

僕はニューヨークで野球を見たことがないのだが、サンフランシスコのファン気質とはずいぶん違うなあ、やっぱりニューヨークは独特なのかなあとこれを読んで思った。
これに比べると、サンフランシスコのファンはずいぶんおっとりしている。ここ数年低迷が続き、失望させられるプレイの多いサンフランシスコ・ジャイアンツだが、ファンはがっくりと肩を落としながらも、試合の中で何とかいいところを探して精一杯応援するという感じだ。マイナーリーグから初めてメジャーに上がった選手が代打とかに起用されたりすると、スタンディング・オベイションでメジャー昇格を祝福したり、球場に来るファンはおそろしくジャイアンツに詳しい、ジャイアンツを愛する人たちばかりである。
JMMメールマガジン最新号で、冷泉彰彦氏も「松井稼頭央アメリカ野球」というコラムで、同じことを指摘されていた。

どうしてそのような苦労をしなくてはならなかったのでしょうか。それは、メッツ球団とそのファンの気質にあるように思います。少々厳しい言い方になりますが、それは「他者への信頼」という感覚が欠けているということだと思います。メッツのファンは、球団や個々の選手に対してまるで自分自身の人格を投影するかのように「のめり込んでいく」傾向が強くあります。好調な選手に対しては、自分のことのように喜び、不調になると落ち込むのですが、その程度が一線を越えていると言わざるを得ません。

2006年の5月、後から考えれば移籍直前の松井稼頭央選手の姿をシェイ・スタジアムで見たときに、私はハッキリ理解しました。これはファンの問題なのだと。松井選手が打席に入るとメッツファンは「サクリファイスサクリファイス」というヤジの大合唱になっていました。「サクリファイス」とは犠打という意味で、要するに「お前は送りバンドでもやっていろ」という意味なのです。局面としては送りは考えられない状況で、そういうヤジを送るというのは、選手としての松井、彼を打席に送った監督に対して、いや野球というスポーツそのものを「なめている」としか言いようがありません。観客という「傍観者」として、しかし自分の楽しみとしてチームを応援し、そこでプレーする選手を一個の人格として認め、その可能性に対して信頼を置く、そうした姿勢はそこには全くありません。とにかく、自分の思いと、実際にそこでプレーしている選手の間に境界がなくなり、ひたすらに自分の思いをぶつけるだけなのです。「他者への信頼」が欠けているというのはそういう意味です。

確かにこういう感じは、サンフランシスコには全くないな。

その意味で、ロッキーズとそのファンの気質は全く別です。例えば、10月1日の「ワンゲーム・プレーオフ」が良い例です。13回の表、継投を続けてきたベンチはホルヘ・フリオというベネズエラ出身の20代の投手をマウンドに送りました。ところが、このフリオは大舞台に緊張したのかストライクが全く入らないのです。(中略)
メッツの本拠地だったらブーイングで球場が揺れるところですが、デンバーは静かだったのです。うなだれたフリオ投手は、ベンチに引き上げると静かに座ったのです。
誰も泣かず、騒がず、多少のブーイングはありましたが、それもすぐに静まりました。フリオも何かを蹴飛ばすのでもなく、静かにその後の展開を見守っていたのです。この静けさは何なのでしょう。

そう、大切な試合で味方チームがつらい場面になると、普通は球場全体がしーんと静まりかえる。そして僕はこのしーんとした「静けさ」を球場で感じるのが何よりも好きだ。やっぱりニューヨークが特別なんだろう、きっと。
横浜逍遥亭は、

それにそもそもニューヨークでチャレンジすることに何か意味があるのか?
2年半をケガとブーイングとともに過ごした松井稼頭央ロッキーズで本来の力を発揮し、周囲に認められる存在として頭角を現してきたのを見るのは気持ちがいい。

こう締めくくる。ロッキーズは松井の活躍もあって「18勝1敗」の快進撃でナリーグの優勝決定戦(七回戦)に進んだ。相手はアリゾナ。別にボストンのように圧倒的に強いチームではない。五分の戦いだろう。ロッキーズの奇跡は、ワールドシリーズまで続くだろうか。