サバイバルという言葉が嫌いなら使わないで話そうか

 Rich Chen(ex-GoogleHatena Inc.取締役)と「はてなの経営」について話をしていると、彼の「グローバルな発想」からいつも新鮮な刺激を受け、学ぶことが大きい。それは彼がアメリカ人だからではなく「英語圏のネット世界」に「住むように暮らしてきた」からである。日本人と日本語圏とネット上の日本語圏ってほとんど一致しているから、ネットを日常的に使うことで「世界」とか「グローバル」を実感するってことはほとんどないと思うけど、「英語圏のネット」って本当に「世界」「グローバル」への広がりを実感できる。
 「はてなが仮にスケールアップできるようになったとき、エンジニアをこれからどこで採用したらいいのか」という議論でも、Richは「リトアニアハンガリーがいいんじゃん」とか、いきなり自然体で言う。しっかりした教育を受けた優秀でやる気のある若者たちが世界中でどんどん量産され(だって皆、寸暇を惜しんで勉強しているんだからね)、「英語圏のネット」につながってきているから、そういう発想が自然に出てくる。「英語圏のネットに住むように生きる」人たちが、ここ十年で自然に身体で理解した感覚なのだろう。オープンソースの世界で活躍している人たちも同じだろう。
 設立したHatena Inc. で必要な比較的シンプルな仕事の断片は、Richのサジェスチョンで、時間単価をだいたい決めてCraig's Listに投げるようにしている。そうすると驚くほど多様な人々が、その仕事に応募してきて、簡単なテストをしていちばん能力が優れていてやる気と創意工夫に満ちた人に依頼する。仕事を出すと決まった人が、シリコンバレーに住んでいる人とは限らない。
 こんなことはグローバリゼーションという文脈で、多くの人がすでに語っていることだけれど、「英語圏のネット世界」は、それが本当にカジュアルに自然に具現化されようとしている世界だ。「日本人・イコール・日本語圏・イコール・ネット上の日本語圏」の世界にいるだけだと、こればっかりはなかなか実感できないかもしれない。頭でわかってもね。
 「次の十年」、いまの大学生が三十代に入る頃、さらに加速した変化が「仕事をめぐる世界」「職業をめぐる世界」に起きているだろう。いまは「そういう時代なんだ」ということを認識して「緊張感を持って生きる」ってどういうことかを考えてほしいな。
 社会が悪いのは誰かのせいだみたいに考える人がいるみたいだけど、政府だって「こういう大変化」の前ではぜんぜん無力という面もあるよ。変化に適応しやすいのは大組織より個だ。個が「緊張感を持って生きる」ことにし、そう頭を切り替え、ネットの世界に向き合って、その可能性を追求すれば、脅威はチャンスに変わる。
 ブックマークのコメント欄で、「goo 辞書によると【(1)異常な事態の下で、生き延びること。また、そのための技術。/(2)超心理学の用語(以下略】」と、「サバイバル」という言葉の定義について書いてくれた人がいるけど、いまは本当に「異常な事態」なんだと思うよ。その「異常な事態」を誰かのせいにして何もしない言い訳にして今日を明日をのんびり無為に過ごしたら、そしてそれを続けたら、十年たって本当に後悔すると思うよ。
 まずそこまでが「当たり前の世界認識」。じゃあそこからどうするかというときに、「好きなことを貫く」ことで競争力を出そうね、「好きなこと」でなければ徹底的には続けられないよね、それはネットが増幅してくれるよね、という話になるわけだ。