続々・ロングテール論について

デジモノに埋もれる日々」からトラックバックをいただきました。前編から後編へと続く長文の論考なので、興味のある方は是非。
http://c-kom.homeip.net/review/blog/archives/2005/03/post_172.html
http://c-kom.homeip.net/review/blog/archives/2005/03/post_173.html
二つ前のエントリーで「マクロに見て」という表現を使いました。それは、今のところ、「GoogleAmazonのようなネット列強の事業が、これまでリアル企業がそのコスト構造ゆえに追求できなかったロングテール部分を、実は効率的に追求しているものだったのだ」ということだけが、ロングテール論においてなるほどそうらしいねと実証的に考えられる部分で、さらに発展した議論はまだ仮説の提示に過ぎない、と思うからです。
つまり、GoogleAmazon(ロングテールの集積を効率的に行うインフラを有する者)の立場に立って、マクロに事業機会を見渡したときに、ロングテール部分を集積した市場規模がこれまで想像していた以上に大きそうだ、ということが新しい発見(ロングテール論への刺激)としてあったということです。厳密に言えば、マスとニッチの定義をしないまま、「マスの集積」と「ニッチの集積」の大きさの比較をすることには意味がないわけですが、ひょっとすると「マスの集積」よりも大きいのではないかと大胆にもイメージする人までいるということです。
「自分たちはロングテール追求会社なのだ」という言い方までし始めたGoogleの売上高が、想像を大きく上回るスピードで急激に伸びていること(今の勢いだと、2005年の売上高は5,000億円/年くらいの感じでしょう)への驚きが、ロングテール論を勢いづかせている大きな理由でもあります。今のところロングテール論はそれ以上でも以下でもないが、それだけでも十分面白い、と僕は感じています。
「ミクロに見た」ときに、ニッチの価値がマスの価値に比べてどうか、マスとニッチの関係がどうなるかという議論は、同じべき乗分布に従う現象を見ても、状況により、ミクロといってもそれぞれの個の立場の違いにより、その判断は大きく左右されるはずなので、ロングテール論とは別のフレームワークを使って議論すべきではないのかな、と漠然と感じています。
Googleロングテールについては、CNET連載2004年12月16日「Googleをめぐる2004年の総括」
http://blog.japan.cnet.com/umeda/archives/001930.html
の中で、エリック・シュミットがこんな発言をしていますよ、ということでご紹介した部分を改めて引用しておきます。

このことは、GoogleのCEOであるSchmidtが、インタビュー記事の冒頭で「What is it that people don't understand about Google?」と問われて、
「The thing that people seem to miss about not just Google, but also our competitors, Yahoo, eBay and so forth, is that there's an awful lot of communities that have never been served by traditional media. There's a tremendous number of small businesses that have been able to get tremendous economic returns because all of a sudden their market is no longer a local market. But it's a global market of like-minded small businesses in a specific area.」
「We've seen tremendous growth in these sort of very small micro markets. There are so many of them that the numbers are very, very large.」
こう答えている部分と呼応する。Schmidtは、Googleを含めたネット列強の特質を、旧来型企業がきめ細かく対応できなかった「tremendous number of small businesses」(個人も含む)がカネを稼げるインフラを用意したことだと、述べているのである。この部分は極めて本質的である。

ロングテール論の提唱者Chris Andersonの「Long Tail」という名のBlogで、Googleについて書かれたのは2月12日分です。
http://longtail.typepad.com/the_long_tail/2005/02/googles_long_ta.html
冒頭で、Googleがアナリスト・ミーティングで使った資料を参照しています。Google作成の資料のタイトルは、「Serving the long tail」となっています。さっきGoogleのことを、「「自分たちはロングテール追求会社なのだ」という言い方までし始めた」と形容したのは、こんな事実があるからでした。

On Tuesday Google had their analyst day, which was focused on articulating their strategy and explaining the underlying dynamics of their remarkable success. I've described Google as a "Long Tail company" before, so I was delighted to see that this is the way they now describe themselves, too.

Chrisはこんなふうに少し自慢したあとで、Googleがなぜロングテール追求会社なのかを解説しています。

What Google has done is to find and monetize the Long Tails of both advertisers and publishers. These include millions of small companies and individuals who may never have advertised before, at least not nationally. They were considered sub-scale--too small to be worth a call or visit from an ad salesperson, possible too small to even think of themselves as an advertiser at all. But Google ads are self-service, cheap, and performance based (pay-per-click), which all combine to dramatically lower the barrier to entry.

ロングテール論の本質は、ここで書かれているように「ネット列強のビジネスモデル」を解読するという意味合いが強いと僕は考えています。でもそれだけだと「私にとってロングテール論ってどういう意味があるの?」という想定的問いかけに「いや何も関係ないよ」と素っ気無く答えるだけになってしまいます。現実には、ロングテールを追求するインフラというのは誰もが持っているものではないので、普通の個人にとって、普通のリアル企業にとってロングテール論なんて「So what?」です。でも、それだと盛り上がらないから、さまざまな仮説をロングテール論の周辺で展開して、もっと全体にとって意味のある議論にしたほうがいいんじゃないかと思っている人たちがいて、いろいろな仮説が提示され始めた段階にあるのだと思います。