クーンツ「ベストセラー小説の書き方」

ベストセラー小説の書き方 (朝日文庫)

ベストセラー小説の書き方 (朝日文庫)

もう20年以上前に書かれた本だが、ひょんなきっかけで知りお正月に読んだ。クーンツの「売れるもの」を作ることへの誇りが素晴らしい。
大衆(読者)をほうを向いてモノを書く「商業作家」を「エリート指向の作家」と峻別し、前者のほうがうんと難しく後者は簡単、と斬るところが面白い。たとえばクーンツはこの本でヒーロー、ヒロインの造型の重要性を詳しく説くが、

いわゆる「純文学」といわれる小説には、正真正銘のヒーローやヒロインは登場しません。この種の小説の登場人物は、たいていか弱く、傷つきやすく、ときにはおよそ虫の好かない人物であることさえあります。この慣習のおかげで、エリート向け小説の作家は、どんなにか楽になっています。ヒーローよりも悪人やか弱い人物を描くほうが、ずっと楽しいし簡単なのは、作家なら誰しも認めるところだからです。(p28)

読者を魅了するヒーローを描くことの難しさを指摘する。「自分が書きたい」ことより「誰かが読みたい」ものを。「自分が作りたい」ものよりも「お客様がほしい」ものを。よくそう言われるけれど、いざ「売れたもの」を目の前にすると、エリートたち(学者・批評家・・・)はそれらをあまり評価しない。「売れる」ということはそれだけで「偉い」ことなのだということを、この本は誇りを持って書いている。技術の世界も全く同じ。将棋の世界にも「勝つことは偉いことだ」(塚田正夫)というシンプルで深い名言がある。