CNET Japan連載を終えての感想(2)

連載をはじめてしばらくして、山岸君から「キャリア戦略」への若い読者の関心が強いと聞いた。「キャリア戦略」といえば「いかに生きるべきか」みたいな大仰な話につながるわけで、そんなものを書く気はもともと全くなかった。でも、「成功とか幸福というのは、頭の回転の速さ、知識の量、記憶力といったこととの相関関係はむしろ小さく、人との出会いという偶然を大切にする姿勢、日々過ごす環境を少しずつでも良いものに変えていくことにどれだけ意識的であるか、自分を知りその自分の生き場所を社会全体の中から見つけ出そうと考えられる柔軟性、そういう類のこととの相関関係のほうが大きい」という、こう書いてしまえばまぁ当たり前の話を、ITトレンドにときどきまぶして、若い人たちに話してみるのもいいかなと思うようになった。そして、ロジャー・マクナミーが何気なく口にしたVantage Pointという言葉にとても触発された。若者は見晴らしのいい場所に行け。確かにそれが「キャリア戦略」としていちばん大切なことだなと思った。見晴らしのいい場所には旬な人が集まるからより良い出会いが生まれるし、未知の自分を発見するチャンスも大きくなる。
日経新聞私の履歴書河野洋平の最終回(12/31/04)で、
「我が政治人生を振り返ってみると、晩年の父の言葉に自らの感慨が重なる。「世の中はそういつも思い通りになるものではないんだ」と。」
と書いているが、僕の父も晩年にこんな文章を書いている。

「貧乏人の家に生れて気の毒だな、と私が言うと子供たちは、家はそれほど貧乏じゃないよと言ってくれる。事実私は決して貧乏じゃないが、私があえて貧乏というのは、決して人間は思ったほどには報われないものだという実感があるからである。そしてこの実感は、親が子供に正しく伝えてやらなくてはならないことの一つだと信じているからなのである。」(昭和52年「ボク」流家庭訓育法」梅田晴夫)

お正月はいつも亡くなった父のことを考える。もう24年が過ぎた。
「世の中はそういつも思い通りになるものではないんだ」、「決して人間は思ったほどには報われないものだという実感がある」。確かにこういう感じは僕の中に刷り込まれていて、毎年正月を迎えるごとにその刷り込みを有難かったなと思う気持ちが強くなっていく。「思い通り」「思ったほど」の「思い」っていうのは自己中心的な世界観のことで、それは必ず社会と軋轢を起こす。「キャリア戦略」なんてそこから始まる話だものね。