3連敗から4連勝。メジャーリーグポストシーズン史上初の大逆転を果たしたボストン・レッドソックス
今年のボストンはロースター25人のバランスが取れた強いチームで、明らかにニューヨークよりもいいチームである。史上最強のチームの一つに数えられる素晴らしいチームである。
それがこうした形で証明されたことは喜ばしいことだと思う。
そして、そのことをレッドソックスのチーム全員が信じていたからこその三連敗からの四連勝だった。選手たちは皆、連戦中のコメントで、「今年のチームはスペシャルなんだから、絶対に最後まで勝利を信じ続けている」ということを、口々に言っていたから。それは自分たちがいちばんよくわかっていたのだろう。以前の本欄で、
http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20040531
Business Week 4/26号のカバーストーリー
http://www.businessweek.com/magazine/content/04_17/b3880001_mz001.htm
を引きながら、

ボストンは今年がピークであり、今年は絶対にワールドシリーズを制したいのである。

と書いたが、ペドロ・マルティネス、デレク・ロー、ジェイソン・ベリテックは皆、シーズン終了後にFAになる。今年このチームでワールドシリーズにいけなければ、バンビーノの呪いからボストンは永久に解き放たれないとファンはやきもきしていたのである。そのファンの思いと、選手たちの自チームの強さ・まとまりへの信念が、奇跡の4連勝を生んだのだ。
それにしても、ボストンの30歳のGM、Theo Epsteinの腕がすごい。
彼が就任してからの補強がすべて当たっている。
http://www.mochioumeda.com/blog/2002_12_01_archive.html#85383005
これは僕が個人サイトでBlogを書き始めてまもない2年弱前に、Theo Epsteinが28歳でGMに就任した日のニュースを見て書いたもの。

メジャーリーグの名門球団、ボストン・レッドソックスに28歳のGeneral Managerが誕生した(三年契約)。こういうニュースに接すると、アメリカという国が、いたるところで若い才能にチャンスを与えつづけていることに、僕はとても勇気付けられる。ニューヨーク・ヤンキースGM、Brian Cashmanも、98年にGMに就任した時は30歳だった。この記事によれば、レッドソックスGMに就任したTheo Epsteinは、エール大学在学中からインターンとしてメジャーリーグのフロント業務に従事し、卒業後はサンディエゴ・パドレスで経験を積んだ。その才能やハードワークや野球に対する深い洞察などが、きっと経営者の目にとまったのであろう。「With the Padres, one of his tasks was to learn every team's depth chart of prospects from top to bottom.」とあるから、彼はパドレス時代にメジャーリーグ全球団の配下のマイナーリーグにどんな可能性を持った選手が存在するのかを徹底的に調べて頭にたたきこんだのに違いない。レッドソックスのこれからの補強に要注目である。2004年末にはフリーエージェントとなるメジャーリーグ屈指の二人の看板選手、ペドロ・マルティネス(投手)とノーマー・ガルシアパラ(遊撃手)とどんな契約を交わすのか、はたまた放出するのか、その判断はこの若きGMに委ねられることになる。

それからの彼の補強は本当に凄かった。
今年の七月のトレードデッドラインでも、ガルシアパーラを放出して、複雑なディールを組み立てて、オーランド・カブレラとダグ・ミエンキービッツを取り、ドジャーズで不要になったロバーツも獲得(そのロバーツがいなければ、第四戦で負けていた)。これで格段にバランスのいいチームになった。守備力を強化しないとポストシーズンに行けないというのがTheoの考えで、オーランド・カブレラとダグ・ミエンキービッツが入り、エラーはシリーズを通して一個か二個だったはず。
昨年オフに獲得したエース、カート・シリングと、クローザーのフォールクも彼の見立て。この補強にも唸った。シリングは球界を代表する大投手で当たり前のように見えるが、やはりカート・シリングのハートは図抜けていいのだ。それを選手生命を賭けた第六戦での登板がよく表している。またシリングに比べれば、フォールクは地味なのだけれど、本当にいい投手。4-5-6戦に彼が終盤、一点でも取られていれば、この奇跡はなかった。
テリー・フランコーナ監督を昨シーズンオフに選んだのも彼である。
ヤンキーズGMキャッシュマンに比べても、マネーボールのA'sのビリー・ビーンよりも、その下で働いていて今年からLAのGMになったデポデスタよりも、Theo Epsteinのほうが凄腕だと思う。
何よりも、ポストシーズンMVPを獲得したDavid Ortizと、今年のシーズンが始まったばかりの五月に、かなり割安の複数年契約を結んでいるところが彼の眼力と執行力である。
「The Red Sox signed David Ortiz to a $12.5 million, two-year contract extension today, according to the AP. The deal includes a club option for 2007.」
2005-2006で$12.5milで、2007年のクラブ・オプション付だから、事実上の三年契約。David Ortizが大化けしたオフを待っての契約だったら、この金額の倍でも契約できなかっただろう。今オフに再契約となる選手の中からDavid Ortizだけを選んでシーズン途中にこの契約をまとめたわけだから、何か人とは違う才覚をTheoは持っているのである。
いずれにせよ、Theo Epsteinの今後には要注目。
特にチーム主力がかなりFAとなる今オフにどんなチーム作りをしてくるか。
来年は先発陣ではシリング、アロヨが残る。クローザーのフォールクも契約が残っている。野手ではラミレス、オーティスの3-4番が残る。この5人を核に、あとは誰と契約を更改し、誰をトレードで獲得するのか。
屈辱の4連敗を喫したヤンキーズは、Brian Cashmanが(スタインブレナーの逆鱗に触れてクビになったりしないといいな)、オフにまた湯水の如くカネを使って、来季に雪辱を賭けてくるだろう。果たしてペドロ・マルティネスヤンキーズにいくのだろうか。
http://sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?f=/news/archive/2004/10/21/sports0403EDT0122.DTL
ではさっそくキャッシュマンがこう語る。

"The series obviously turned in that Game 4. Then the momentum started going their way and we just couldn't hold 'em off. We obviously broke down in a number of areas," Cashman said. "We'll start working on our offseason. That's what we do win or lose -- just start earlier than we thought."

「予定よりちょっと早く来年の準備をしなくちゃな」と。
Theo EpsteinとBrian Cashman。二人の若いGMによる新しいライバル伝説が、昨日幕を開けたのである。