<5/9> 若島正「乱視読者の帰還」より
「「純粋なるもの」は、羽生名人を筆頭にして、現在の将棋界を支える若き俊英たちの将棋に賭ける思いを、プロ八段の島朗がニュージャーナリズムの手法を用いて活写した。図面も棋譜もまったく出てこない将棋本である。そこには従来の人間くさい将棋観がみごとに欠落していて、不純な中年のわたしなどは多少抵抗を覚えるが、新しい世代の棋士を描いたものとして成功している。九X九の狭い将棋盤を広大な宇宙だと思い込むのは、人間に許された最も美しい錯覚なのだから。」(p328)