ウェブブック「生きるための水が湧くような思考」本日刊行です。
去年の暮れに「2008年には三冊、本が出るはずです」としゃべったのを記憶してくださっていて「二冊しかまだ出ていないけど・・・」と書かれた感想をいくつか読みました。
今日は「ウェブ時代 5つの定理」「私塾のすすめ」につづく今年「三冊目」の本のお知らせです。
書名は「生きるための水が湧くような思考」。
でも紙の本ではなく、ウェブブックとしました。経緯を少しお話しします。
2006年2月以来、書き下ろしで「ウェブ進化論」「ウェブ時代をゆく」「ウェブ時代 5つの定理」の三冊。対談で「ウェブ人間論」「フューチャリスト宣言」「私塾のすすめ」の三冊。過去の作品の文庫化が「シリコンバレー精神」。計七冊を出版しました。
そして、企画として最後に残っていたのが、さまざまな雑誌や新聞やウェブに掲載された僕の文章や対談から、本にまとめるに値するものを厳選し、テーマごとに分類して意味付けし、改めて構造化して、一ページ目から最後のページまで通して読めるような一冊の本を作ろう、というものでした。
僕はこれまでの本を、できるだけ多くの若い人たちに読んでほしいという意味もこめて、価格の安い新書で出すことにこだわってきました。でもこういうタイプの本は、新書にできないので、単行本になってしまいます。しかもページ数がかなり多くなるから印刷コストがかさみ、書き下ろし作品よりも売れないので、本の価格を高く設定しなければなりません。
内容は過去にちらっと読んだものが多いのに、価格は新書の三倍、という本になります。しかもこういう本は寿命があまり長くならないので、早くに絶版になりやすく、三年後にはもう手に入らない、という事態になりやすいのです。
僕自身は、こういうタイプの本が好きで、書架には好きな作家のこういう本がたくさん並んでいるのですが、そういう諸々についていろいろ考えた末、今回はこの企画を「紙に印刷して値段をつけて出版」することはせず、そのかわり、本のような構造化をしっかりした上で、すべてウェブ上で無償で読める「ウェブブックという形で出版」してみようと決めました。これならば絶版などにはならず、未来永劫、皆さんが読みたいときにウェブ上で読むことができるからです。
さて、「ウェブ時代をゆく」の中で、「生きるために水を飲むような読書」をしてきたと書きましたが、もう少し広く僕自身が継続的にやってきたことは何だろうと考えたとき、「生きるための水が湧くような」、つまり、「エネルギーが自分の中にみなぎってくるような」思考を心がけて毎日を過ごしてきた、そういうことに尽きるな、と思い至り、書名は「生きるための水が湧くような思考」としました。
目次は次の通りです。序章「世界観、ビジョン、仕事、挑戦――個として強く生きるには」と1章の冒頭「グーグルに淘汰されない知的生産術」は、本書のプレビューのような形に結果的になりましたが、最近のブログでたくさんの方に読んでいただいた文章です。
序章 世界観、ビジョン、仕事、挑戦――個として強く生きるには
1章 知的生活の技術――唯時間論
- グーグルに淘汰されない知的生産術
- 言論人よ、群衆と真剣に向き合え
- 情報量が仕事量を規定、そんな時代の生存術とは
- 日本人の前にそびえたつ「言語の壁」という難問
- 「フェースブック」の急成長に感慨と無力感を覚える
- 「精緻なMBAカリキュラム」”自家製”の勧め
2章 レスト・オブ・アスにとっての「ウェブ時代」
3章 『ウェブ時代 5つの定理』:金言コレクション
- 『ウェブ時代 5つの定理』をめぐって・その1
- 『ウェブ時代 5つの定理』をめぐって・その2
- 僕はこんな言葉に未来を見てきた
- 『ウェブ時代 5つの定理』名言リンク集
4章「ロールモデル思考」という知恵
- 今北純一×梅田望夫「欧州の真の力強さとは何か」
- まつもとゆきひろ×梅田望夫「ウェブ時代をひらく新しい仕事、新しい生き方」
- まつもとゆきひろ×梅田望夫「ネットのエネルギーと個の幸福」
- 岩田聡論・任天堂復活が示す、日本企業の未来図
5章 生きるために水を飲むような読書
- 生きるために「読み」「書くこと」で生きる
- ぼろぼろになるまで読んだ四冊の本
- 読売新聞書評欄連載で選び評した12冊の本
- 「下から見た小説」に映る新しい日本
- 無限から有限へのマッピング: ものを書くということ
- 「野球への愛」に溢れた5作品でメジャーリーグをさらに楽しむ
- 「ニュー・ニュー・シング」を読もう
- 「ニュー・ニュー・シング」の魅力とシリコンバレーの本質
- 日本企業が持つ「C級性」の魔力
終章 生活こそが作品
- 前途ある高校生に書き送った言葉
- 私塾創設、ネットで実現
- いま自らに問いかける「私自身の核」とは何か
- 場所にいっさい縛られない、そんな自由を求めて
附録1-人物論 (書籍の一部分、ウェブでは未掲載)
- 近藤淳也論(近藤淳也『「へんな会社」のつくり方』翔泳社、2006年2月、解説)
- 茂木健一郎論(梅田望夫・茂木健一郎『フューチャリスト宣言』ちくま新書、2007年5月、「おわりに」)
- 齊藤孝論(齊藤孝『働く気持ちに火をつける』文春文庫、2008年3月、解説)
- 海部美知論(海部美知『パラダイス鎖国』アスキー新書、2008年3月、解説)
附録2-おもな対談(書籍の一部分、ウェブでは未掲載)
- 小飼弾×梅田望夫(『Web2.0ツールのつかい方』技術評論社、2006年11月)
- 小宮山宏×梅田望夫(小宮山宏『東大のこと、教えます』プレジデント社、2007年3月)
- 中島聡×梅田望夫(中島聡『おもてなしの経営学』アスキー新書、2008年3月)
附録3-シリコンバレー精神で生きる(書籍の一部分、ウェブでは未掲載)
「シリコンバレー精神」とは/そのときグーグルは何をしていたのか/未来を創造する営みが水面下で続けられていた歴史/起業家主導型経済にバブルやモラルハザードの発生は必然/「シリコンバレー精神」だけがメカニズムを補強できる/活況を呈したシリコンバレーでまたバブルが起きるか/「シリコンバレー精神」でモノを書く/「二〇〇一年秋から二〇〇六年夏」のこと/その後の私
(梅田望夫『シリコンバレー精神』ちくま文庫、2006年8月、文庫のための長いあとがき)
本編の序章から終章までは、すべてウェブ上で無償で読むことができます。ちなみにリンク先が出版社等の商用サイトである場合、文章を複数ページにわたって読むように編集されている場合がありますが、その点はご了解ください。
附録に掲げたものはウェブ上では読めませんが、すべて手に入る本ばかりなので、興味があればぜひ書店で手に取ってみてください。本が絶版となって書店ではもう手に入らなくなったときには、出版社に頼んで、当該部分だけはウェブ公開を許していただき、このウェブブックからリンクをたどって読めるようにしたいと考えています。
附録3は、「シリコンバレー精神」の「文庫のための長いあとがき」(原稿用紙60枚、2006年夏に書きおろしたもの)です。ウェブブック「生きるための水が湧くような思考」をずっと読んだ最後に、これを読んでいただくと、きっといろいろなことがつながってくるのではないかと思います。
サバティカル前のものを書く最後の仕事は、このウェブブック「生きるための水が湧くような思考」となりました。新しい試みを、どうぞお楽しみください。
一連の作品をまとめて一冊の本として読んだ感想を、また楽しみにしています。相変わらず、ウェブ上に書かれた感想はすべて読もうと、ベストを尽くしています。