「頭脳勝負 将棋の世界」(渡辺明著 ちくま新書)

来週火曜日(11月6日)頃から「頭脳勝負」という将棋の渡辺明竜王の本が書店に並ぶ。まだ書店に並んでいない本について書くのには理由がある。じつは僕がこの本の「帯」にひとことコメントを寄せているからなのである。
ゲラ段階で本書を読み、これは本当に素晴らしい本だと思った。何が素晴らしいか。それは23歳の若き竜王渡辺明が、将棋ファンに対してこんな気持ちを持っていると知ったからである。

棋士は将棋を指すことによってお金をもらっていますが、これはプロが指す将棋の価値を認めてくれるファンの方がいるからです。スポーツ等と同じで、見てくれる人がいなければ成り立ちません。
ただ、将棋の場合「難しいんでしょ」「専門的な知識がないと見てもわからないんでしょ」とスポーツに比べて、敷居が高いと感じている方が多いように思います。確かに、将棋は難しいゲームです。しかし、それを楽しむのはちっとも難しくないのです。「なんとなく難しそう」というイメージで我々のプレーがあまり見られていないとしたら、残念なこと。というわけで、将棋の魅力を多くの人に伝えたい、と思って本書を書くことにしました。(はじめに)

例えばプロ野球を見る時。「今のは振っちゃダメなんだよ!」とか「それくらい捕れよ!」。サッカーを見る時。「そこじゃないよ! 今、右サイドが空いていたじゃんか!」「それくらいしっかり決めろよ!」。自分ではできないのはわかっていてもこのようなことを言いながら見ますよね。それと同じことを将棋でもやってもらいたいのです。
「それくらい捕れよ!」と言いはしますが、実際に自分がやれと言われたら絶対にできません。「しっかり決めろよ!」も同じで自分では決められません。将棋もそんなふうに無責任で楽しんでほしい。(第三章 将棋というゲーム)

この言葉には、棋士・渡辺の危機感と責任感がよく現れている。
この文章を読んで僕は心から素晴らしいと思ったのだ。
そして帯の言葉を二ヶ月ほど、この本のゲラを何度も読みながら考え続けた。短いひとことを考えることは、長い文章を書くのと同じくらい難しい。
たくさんの候補を作った。ここでいま本書を評する代わりに、それらを列挙することにしよう。以下の最終候補のどれがこの本に帯になったかは、是非書店でたしかめてみてください。

  • わかりやすくて深い、そして正直な、将棋鑑賞のバイブル
  • わかりやすくて深い、将棋を楽しむバイブル
  • 将棋を楽しむ技術が、第一人者の手で正直に書かれた
  • 将棋を観て楽しむためのすべてがここにある
  • 将棋を観て楽しむすべて。わかりやすく深い
  • 将棋を観て楽しむ術。わかりやすく深い
  • 将棋を観る楽しみのわかりやすくて深い名解説
  • こんな将棋の本は、今までになかった
  • 若き竜王の危機感と責任感が生んだ名著だ
  • 無責任に将棋を楽しんでほしい、こんなことを言った棋士はいない
  • 将棋もサッカーのように観て楽しめるものなのだ

頭脳勝負―将棋の世界 (ちくま新書)

頭脳勝負―将棋の世界 (ちくま新書)