ジャックの小さい頃: 「強情な顔」

昨日の「ジャックの食欲」には、コメントやトラックバック、たくさんのブックマークもいただき(ブックマークのコメントもなごむものばかりでいいですね)、思いの他、友達たちにも好評だったので(リアルで会う知り合いには、専門の話よりこういう話のほうが楽しいんだよな)、日本は連休中だし、ジャックと二人きりだし、今日もジャックの話を続ける。
ジャックの小さい頃でいちばん思い出深いのは、ジャックの「強情な顔」である。
エネルギーの塊のようだった仔犬時代、とにかくきちんとしつけをしなくちゃしょうがないな、という話になって、妻と二人で「しつけの訓練」を受けた。
そこで教わったことのひとつが、こういう方法。
ジャックが悪いことをしたときに現場を押さえて(過去のことを叱ってもわからないから)、すぐにジャックの両頬を両手で持って、人間の顔のところまで持ち上げ、顔と顔をつきあわせて「ノーーーー」と強く言うというもの。
吊り上げられているわけだから、しばらくは力をこめているだろうけど、たいていの犬はちょっとしたら身体の力を抜くよ。それが恭順の意を示したことになるので、そこで床におろしてあげなさい。そう教わったのだ。
僕が今も忘れられないのは、吊り上げられて「顔と顔をつきあわせたとき」のジャックの強情きわまりない顔だ。
しかも、どれだけの時間吊るされて叱られても、ジャックは一度も身体の力を抜いたことがなかった。そうこうしているうちにこちらが根負けして、そんなに長く続けるわけにいかず、全く力を抜かないジャックをゆっくりと床におろしてやるはめになる。
そんなことを繰り返しているうちに、日に日にジャックは成長し、もう両頬を持って持ち上げることなどできないほど巨大になっていき、そのやり方は通用しなくなった。
完全にこっちの負けであった。
僕がジャックになめられるようになってしまった理由のひとつなのかもしれない。
ジャックは十歳半になり、ふだんは柔和でやさしい顔になってきたけれど、ときおり小さい頃のような「強情な顔」を見せることがある。そんなときはいつも、吊り上げて顔と顔を突き合わせて「ノーーーー」と言っていたときを懐かしく思い出す。


付録・ジャックの写真の中でいちばんアップで撮れたもの。これは柔和な顔。