ドジャースの新しさについて

ドジャースGM・DePodestaは、全く新しい野球を追及している。オークランドGM補佐だった彼がドジャースGMに就任したのは昨年の開幕直前だった。だから昨年、ナリーグ西地区を制したドジャースのチーム編成は、彼の新しい野球を求める考えに基づくものではなかった。そして昨年7月末に彼が行ったトレード、そして昨年オフのチーム再編成に対しては、ファンからも野球メディアからも酷評され、今季の優勝予想でドジャースを優勝候補に挙げた評論家は一人もいなかった。
それは彼が野球界のこれまでの常識に挑戦して、コスト・パフォーマンスの高いチームを作ろうとしているからである。「スーパースター」は不要。ピッチャーはゴロをたくさん打たせるのがいちばん大切なこと。そして増える内野ゴロに備えて、内野手は守備が抜群にいいのを揃えること。バッターは、四死球も含めた出塁率が高いことがいちばん大切。盗塁はリスクが高いから必要ない、・・・・。厖大な統計データから「野球に勝つために必要な新しいコンセプト」が抽出され、その基準で選手を選べば、コスト対効果の高い選手を獲得できる。簡単に言えばそういう考え方である。

マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男

マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男

この本はオークランドGMビリー・ビーンが主人公のベストセラー・ノンフィクションであるが、DePodestaがビーンの右腕として活躍する姿も描かれている。この本で提示されている新しい考え方が、伝統球団ドジャースに今、適用されているのである。つまらないかもしれないけれど、安上がりにそこそこ勝つチーム。これがDePodestaの目指す理想のチームである。Sports Illustrated誌のドジャース評は、
http://sportsillustrated.cnn.com/baseball/mlb/specials/spring_training/2005/previews/dodgers.html
では、韓国出身のHee-Seop Choiがクローズアップされている。

The blockbuster deal to acquire Choi and Penny for popular catcher Paul Lo Duca and setup man Guillermo Mota met with fervent criticism in local papers and on talk radio.

とあるように、昨年7月、人気の捕手Paul Lo Ducaと、中継ぎで抜群の安定感を示すGuillermo Motaを放出してChoiを獲得したことに、ドジャース・ファンは激怒した。しかし、Choiはやや消極的とも言えるほどボールをよく見る打者で、調子の悪かった昨年も、

Despite his struggles last year Choi walked 63 times in 416 plate appearances and had a .370 on-base percentage.

四球をよく選び、出塁率が高かったのだ。こういう数字は一般的には評価されないから彼の年俸は高騰しない。だからコスト対効果が高い選手なのである。
そして、

But it was only part of DePodesta's extreme makeover; since he arrived in L.A. in February '04, he has turned over more than half of the 40-man roster. Only 12 of 25 players from L.A.'s Opening Day 2004 roster are still with the team. DePodesta has been most aggressive in strengthening the rotation: After adding Penny last summer, he signed free-agent righthander Derek Lowe (four years, $36 million) and re-signed lefthander Odalis Perez (three years, $24 million) over the winter. DePodesta felt secure enough about his starters to trade lefty Kaz Ishii to the Mets in March for Jason Phillips, who'll replace Lo Duca behind the plate.

ナリーグ西地区を制した昨年のチームの半分をリストラした。主軸打者は総入れ替えした。故障がちのJ.D. Drewと複数年契約してこれも論議の分かれるところだが、Drewが昨年100個以上の四死球を選んでいるところが常識以上に高く評価されたのだ。ボストン・レッドソックスの投手・Derek Loweを獲得したのも、彼がよくゴロを打たせるピッチャーだからである。ローテーションの一角に残ったWeaverも「groundball pitcher 」である。
また、近鉄の中村が開幕マイナー落ちしたのも、このチームゆえのこと。ドジャースにおける内野手の最優先事項は守備であり、ショート守備に定評あるベテランのJose Valentinをサードに獲得したところで、中村のレギュラーの目は潰えていたのだ。
また選手は「コモディティ」という割り切りがあるのもけっこう怖い。どうせ野球は3割打者だって10回に7回は凡退する「失敗のスポーツ」なので、ラインナップ9人の中にそこそこ凡庸な選手がいたって構わないという割り切りがドジャースにはある(対照として言えばヤンキースにはない)。3割打者と2割5分の打者の差は大きいか大きくないか。500打数で言えば150安打で3割。125安打で2割5分。シーズン通して25本のヒット差と言えば、週に1本ヒットが余計出るかどうかの差である。この差に年間一人当たり数億円出せるかという問題意識がドジャースにはあるように感じられる。その程度の差ならば四球で埋められるんじゃないの、という感じ。だから、素質ある安い若手が使い続けられていくうちに育つことがある。予想外に育った若手ほどコスト対効果の高い選手はないというわけで、そういうおいしい方向を追求していくわけである。
この「マネーボール」的野球がどこまで球界の常識に通用するのか。今年は「マネーボール」本家・オークランド・アスレチックスと、サンフランシスコの宿敵ロサンゼルス・ドジャースが、この方向をかなり激しく追及しているので、目が離せない。「マネーボール」的野球の奥がどれだけ深いのか、今年はできるだけじっくりと観察してみたい。
皆、サンフランシスコ・ジャイアンツがナリーグ西地区優勝と予想しているが、ドジャースは強敵だ。最後の最後まで厳しい戦いが続くのではないかと思う。