新著「私塾のすすめ」5月8日刊行

5月8日に新著「私塾のすすめ」(齋藤孝さんとの共著、ちくま新書)が刊行されます。アマゾン、紀伊国屋等で予約が始まりました。

レールのない時代である現代をサバイバルするには、一生学びつづけることが必要だ。では、自分の志向性に合った学びの場をどこに見つけていったらいいのか? 本書は、志ある若者が集った幕末維新期の「私塾」を手がかりに、人を育て、伸ばしていくにはどうしたらいいのかを徹底討論する。過去の偉大な人への「私淑」を可能にするものとして、「本」の役割をとらえなおし、「ブログ空間」を、時空を超えて集うことのできる現代の私塾と位置づける。ウェブ技術を駆使した、数万人が共に学べる近未来の私塾にも言及し、新しい学びの可能性を提示する。(カバー折り返しの内容紹介)

私塾のすすめ ─ここから創造が生まれる (ちくま新書)

私塾のすすめ ─ここから創造が生まれる (ちくま新書)

ウェブ進化論」以来の著作活動はこの本で一区切りですが、齋藤孝さんとの対話を通して、僕自身のこれからについても深く考えることができ、本書をつくりあげるプロセスは、たいへん貴重でありがたい機会となりました。特に「ウェブ時代をゆく」を書く中で、結局どうしても最後までわからなかったことを、齋藤さんから教わることもできました。
齋藤さんと対話を始めたときには、本のタイトルに入ることになった「私塾」というキーワードは、まったく存在していませんでした。二人で長い時間、話をしていく中で、二人の志向性が共通する部分として「私塾」というテーマが浮かび上がってきました。
「はじめに――志をデザインする」の中で、齋藤さんはこう書いています。

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二人の共通する「思い」を一言で表現すれば、「私塾願望」と言えます。志を同じくする仲間と熱く語り合い、学びたい。中心には信頼できる人格と力量を併せ持った師がいてくれる。そんな私塾的空間で学びたいという願望があると同時に、自分もまた、「私塾」を開いて若者と熱い学びの祝祭を味わってみたいという願望も持っています。
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師弟関係、塾生同士の関係を「私塾的関係性」と呼ぶとすると、この関係性は現代においては、もっと広がりをもって捉えることができる。少人数の、直接同じ空間を共有する関係だけでなく、インターネット空間でも「私塾的関係性」は成立し得る。そんな可能性を、梅田さんの構想から感じました。
「私淑する」という学び方が私は好きです。直接会ったことはなくとも、師として仰ぎ、学ぶ。そんな素直な学ぶ心の構えが「私淑する」関係にはあります。
学ぶための条件が飛躍的に改善された今、学ぶモチベーションの強弱によって、学習の格差は拡がってしまう。だからこそ、今、「私塾」というコンセプトを強調する意味がある。そう思っています。私淑ならば今すぐできる。私塾的空間もどこでも現出できる。
これが、梅田さんと私の世の中への提言が、「私塾のすすめ」となった所以です。
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僕は「おわりに――私塾による戦い」の中で、こう書きました。

ああ、そうか、齋藤さんと私は、「まったく同じもの」と戦っているのか。
これが、三回の対話を終えたいまの私の正直な感想です。
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齋藤さんと私は、そんな日本社会の閉塞状況に危機感を抱いている。特に、大人たちが発する何気ない言葉の数々が、子どもたち、若者たちの心を萎えさせ、悪影響を及ぼし、社会全体の活力をそいでいることを問題視しています。
そして、自ら力強い言葉を紡ぎ出すことで、その現状を打破したいと考えている。加えて、ふだんはあえて穏やかで上機嫌な雰囲気を作り出してはいますが、私たち二人の内面の気性は激しく、「怒り」を起爆剤にしているところもよく似ています。
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ウェブ進化は、すべての人が、不特定多数に向けて自己を表現する可能性を拓いた。ブログはその初期の道具にすぎず、これからその機能はさらに進歩していきます。ウェブは時空の制約を超えるから、どこに住んでいても、また教育を本業としていなくても、志さえ持てば、志向性を同じくする若者たちを集め、自分がこれまでの人生で学んできたことを伝え、良き刺激を与える役割を果たすことができる。それによって、日本社会の「もやーっとした感じ」「朦朧とした感じ」と戦い、現状を打破する起爆剤の一つになれる。多くの良き大人たちが自由にそんな私塾的活動をする未来に、私は期待したいと思っています。
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目次は次の通りです。5月8日の発売をどうぞお楽しみに。


はじめに――志をデザインする(齋藤孝


第1章 志向性の共同体

明治と現代/ロールモデル思考=あこがれる力/ロールモデルを消費する/「自分探し」への違和感/「けものみち」には直感が大事/二十年前にもしブログがあれば…/「志向性の共同体」と創造/ネットの中で「あこがれのベクトル」を見つける/「空気」をつくるのがリーダーの役目

コラム 梅田望夫「私のロールモデル


第2章「あこがれ」と「習熟」

機能不全に陥った教育/上を伸ばすか、全体の底上げをはかるか/祝祭的な学び体験を重視する/「あこがれ」と「習熟」/コンサートツアーかアルバムづくりか/ブログ執筆と出版/万単位の人からの喝采体験/オリジナリティ重視か定着重視か/ネットは私塾/全日本国民に対してか十人に対してか

コラム 齋藤孝「私のロールモデル


第3章 「ノー」と言われたくない日本人

「寒中水泳」ではもぐってしまったほうが楽/「組織に与えているもの」と「組織から与えられているもの」/量をこなすことをおそれない/打席にどんどん立てばいい/自分のなかに「私淑する人」をつくる/「好きな仕事」でないとサバイバルできない/メンタル面での自己浄化装置をもつ/「心で読む読書」、心の糧になる言葉をもつ

コラム 梅田望夫「私の座右の書」


第4章 幸福の条件

生活が作品/「いかに生くべきか」を考えることは無駄か?/大陸的タイムスパン/やらないことを決める/優先順位のつけかた/「ウェブの細道」/「How are you?」はなぜいつも「Fine」か

コラム 齋藤孝「私の座右の書」


おわりに――私塾による戦い(梅田望夫