He is more playful!
初夏の気持ちよい夕方、住宅街をジャックと散歩していたら、ある家の前で一人で佇んでいたそばかすだらけの細身の少年が、はにかみながらも意を決したように「ねぇ、ペットしてもいい?」と僕に聞いた。「ペットしてもいい?」というのは、ジャックをなでたりして可愛がってもいい? 噛みついたりしない? 大丈夫? という意味だ。散歩していると、犬が好きで仕方ない少年や少女から、ときどきそう声をかけられる。
「もちろんいいよ」
と僕は言い、ジャックを少年に近づけた。
ジャックは少年の顔をべろべろなめ、大喜びで少年の周囲をぐるぐるまわった。少年は何度もジャックの背中をなでて、とってもいい犬だね、ブラック・ラブだよね、と言った。
「年はいくつ?」と僕は少年に尋ねた。
「9歳だよ」
6歳くらいの子かなと思ったので、ちょっと意外な感じがした。
「ジャックは11歳。君より二つ年上だね」と僕は言った。
「He is more playful!」
と少年はきっぱりと言った。
なぜかわからないけど、ちょっとどきっとした。一人ぼっちの少年が、無邪気に遊ぶ楽しそうなジャックと、ちょっとさびしい自分を比べてそうつぶやいたのかな、とふと思ったから。
でも帰って妻にそんな話をしたら、「いやそうじゃなくて、犬のほうが自分より二つ年上だって言われたから、僕のほうが大人だよって言いたかったんじゃないの」と妻は言った。
「He is more playful!」
こんなシンプルな言葉ひとつがとても難しい。