「Super Crunchers」(Ian Ayres著)

「Super Crunchers: Why Thinking-by-Numbers Is the New Way to Be Smart」という本が面白い。
まだ日本語訳が出ていないので、検索したところ主だった日本語の書評はこの一件くらいかな。

著者のイアンは、ラジオ番組でのレギュラーコメンテーターや雑誌・新聞などでコラムニストとしても活躍中で、2006年には、アメリカン・アカデミー・オブ・アーツ・アンド・サイエンス(アメリカ科学アカデミー)を受賞。「法律と経済の第一人者」として知られている人物です。
計量経済学を専門とする著者は、この本で、近年の膨大な量の経済データは、博識な人でも予測不可能だったことを予測可能にしている、と主張しています。

とある。
ウェブ進化論」の中で、「ネット世界の三大法則」の第一法則として「神の視点からの世界理解」を挙げ、その定義を「膨大な量のミクロな「動き」を「全体」として把握すること」とした。
この本ではこれでもかこれでもかとその実例が出てくる。

Super Crunchers: Why Thinking-by-Numbers Is the New Way to Be Smart

Super Crunchers: Why Thinking-by-Numbers Is the New Way to Be Smart

冒頭はまず、ワイン鑑定を、過去の気候データなどの膨大な数字を分析することによってやってしまう「Super Crunchers」(膨大な数字をボリボリと噛み砕く人みたいな感じかな)の話から始まる。本欄でもたびたびご紹介した「マネーボール」の面白さに通ずるなあと思いきや、やはり二つ目の事例は「マネーボール」だった。いずれも旧来の専門家(ワイン評論家や野球スカウト)が「Super Crunchers」を忌み嫌っているところが最高に面白い。グーグルも検索結果を膨大なデータから計算する「Super Crunchers」だし、グーグル社内の意思決定もデータで議論する態度が徹底されている。
テラバイト、ペタバイト単位のデータを「ボリボリと噛み砕く(Crunch)」ようにして分析することで「神の視点」が得られる時代なのである。それをたとえば企業が経営戦略に、政府が政策意思決定に活かす時代がもう始まっているということが、この本を読むとよくわかる。
また「Super Crunchers」と旧来の専門家たちとの関係はこれからどうなっていくのか。それについては、第五章「Experts versus Equations」、第八章「The Future of Intuition」で詳述されているが、徹底的に「Super Crunchers」の優位をこの本は主張する。このあたりは「次の十年」で、よりその対立が先鋭化していくだろう。
知人に問い合わせたところ、日本語訳は11月末頃に出るらしい。
ベストセラー「ヤバイ経済学」を楽しんだ人は絶対に面白く読める本だと思う。また特に理系の若い人たちがこれからの自分のキャリアを考える上でも必読の本だ。米国では数学系の学生への求人が増えているが、さもありなんというところ。日本語訳が出たらまたそのときに感想を書くつもりだ。