「最新戦法の話」(勝又清和著 浅川書房)

 この本は名著である。
 現代将棋を鑑賞するうえでの必読書ではないかと思う。それほど将棋が強くない人でも十分に楽しめる。九章立てで、一手損角換わり、矢倉、後手藤井システム、先手藤井システムゴキゲン中飛車、相振り飛車、石田流、コーヤン流、8五飛戦法という現代将棋の90%以上を占める戦法の「現在」について語り、極めて俯瞰的で包括的な視点を将棋ファンに与えてくれる。また、「将棋というゲーム」の真理の探求を総がかりで行う現代の棋士たち(特にトップクラスの若手棋士たち)の姿を描くルポルタージュとして読むこともできる。
 著者の1995年の処女作「消えた戦法の謎」も素晴らしかったが、本書はさらにパワーアップしていると思う。特に感心したところは、やさしい語り口の中に、現代将棋の本質をつく「わかりやすくて深い名言」が溢れていたことである。

現代の将棋は桂という駒の価値を再発見するような歴史をたどっているのかもしれません。(p25)

藤井システムは玉の安全についての概念を変え、8五飛戦法は飛車の位置を自由にし、一手損角換わりは「手損はマイナス」というイメージを打ち壊しました。(p32)

漠然とした評価から実地検証する時代へ---現代将棋の動きをそのように語ることも的外れではないでしょう。(p160)

現代将棋のキーワードのひとつに「角交換」があります。(p170)

矢倉の飛車先不突きから始まった「あとまわしにできる手はあとまわしにする」という流れは三間飛車にまで及んでいるのです。(p243-244)

といった具合。アメリカンフットボールやサッカーやコントラクトブリッジの比喩まで使った現代的な解説アプローチで何とかその本質を伝えたいという気持ちが伝わってくる。あとがきで著者勝又はこう書く。

私たち棋士はファンに対する「説明責任」をきちんと果たしているだろうかと自問したとき、僕は自信がもてません。特にタイトル戦などトッププロの将棋はひとめですべて理解できるようなものではなく、何度も繰り返し鑑賞することで味わいも深くなります。本書を読み終えたみなさんに「なるほど、そういうことだったのか」「将棋を見る目がかわったよ」と思っていただけるとしたら、ほんの少しだけ説明責任を果たせたということで、これに優る喜びはありません。

その意図は十全に達成されていると思う。著者の意志と姿勢に心から拍手を送りたい。複雑な事象の本質を押さえてわかりやすく伝える仕事はこれからますます重要になる。著者の今後の大いなる活躍を期待したい。

最新戦法の話 (最強将棋21)

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