今北純一「ビジネス脳はどうつくるか」(文藝春秋刊)

今北純一さんの久しぶりの新刊が出た。
今北さんについては、「欧州の個人が持つ力強さの源泉」
http://blog.japan.cnet.com/umeda/archives/001740.html
および、「対談 今北純一×梅田望夫「欧州の真の力強さとは何か」」
http://www.mochioumeda.com/archive/chuko/010701.html
をご参照ください。
さてこの「ビジネス脳はどうつくるか」の書評依頼が「本の話」という文春の雑誌から来た。印刷物である「本の話」に掲載されるのは少し先だが、読者層もぜんぜん違うのでどうぞと編集部から転載許可をいただいたので、その一部をここに転載しておこう。

私は大学生のとき、今北純一さんのデビュー作「孤高の挑戦者」(一九八三年)を読んで、ビジネスの世界にこんな生き方があるのか、と強い衝撃を受けた。今北さんが説く「たった一人のプロフェッショナルとして欧米ビジネス社会を生き抜くさわやかさ」に、私は憧れの気持ちを抱いた。二十代後半で人生の転機を迎えたとき、米国に本社を持つ経営コンサルティング会社への就職を決めたのも、著書を通して今北さんを勝手に私の「ロールモデル」(お手本となる人物)と想定していたからであった。

 その後に書かれた代表作「欧米・対決社会でのビジネス」(一九八八年)から、このたびの新刊「ビジネス脳はどうつくるか」(文藝春秋刊)にいたるまで、今北さんの主張は一貫している。

 日本のビジネスマンたちよ、個として、創造的に生きよ。会社や組織に隷属して没個性的に生きるのではなく、ビジネスの世界を自己表現の場としてとらえ、信念を持ち、たえず自分の頭で考えて道を切り拓けば、素晴らしい人生が待っているはずだ。

 二十三年間にわたり欧州からそんなメッセージを日本に送り続けてきた今北さんが本書を書かれた動機は、「あとがき」冒頭のこの文章に集約されているように思う。

 「いつの時代にも「時代の特権」というものがあります。
 では、今の時代の「時代の特権」とは何でしょうか。日本社会においては、それは個人が活躍し得る時代、と表現できると私は思います。」

 その時代認識に私も全く同感なのであるが、二十一世紀に入り日本にもやっと「個人が活躍し得る時代」が到来した。そんな今こそ、今北さんの二十三年間にわたる数々の著作は、再読されるべきものだと思う。本書「ビジネス脳はどうつくるか」をきっかけに、若い読者が今北さんの過去の著作を渉猟されることを強くおすすめしておきたい。(中略)

 「ミッションを持つ人は、無意識のうちに同じような人を探してある種の信号を発しています。そういう信号を発している人は、互いにすれ違うだけでわかる。そして、そこには必ず、思いがけない出会いが生まれます。それは決して偶然ではなく、必然的な出会いです。私の経験から、このことは自信を持って断言できる。」(本書34ページ)

 これは今北さんの人生観そのものである。日本社会が変わっていくには「本物の個人」が日本にもたくさん現れなければならない。そういう人たちとの出会いを今北さんは求めているのである。(中略)

 「ビジネス脳」とは、あくなき知的好奇心のことなのである。そしてビジネスを通して知的好奇心を満たすことが快楽にまで高まっていったとき、

「ビジネスって楽しいものだと思いますか?」

という今北さんの問いに力強く「YES」と答えられるはずだ。今北さんは「必然的な出会い」を求めて、まだ見ぬ読者に向かって、直球を投げ続けているのである。