アメリカと日本、あちら側とこちら側、ドッグイヤー、次の十年・・・

「パラダイス的新鎖国時代到来? - いいのかいけないのか?」
http://d.hatena.ne.jp/michikaifu/20050728/1122535870
というエントリーは、友人で仕事仲間の海部美知さんが、ご家族で夏休みを日本で過ごしシリコンバレーに帰ってきてすぐに書かれたものだ。

毎年夏に帰るごとに、「日本はどんどん住みやすくなっていくな・・」とぼんやり思っていたが、今年の夏は決定的に、「日本はもう住みやすくなりすぎて、日本だけで閉じた生活でいいと思うようになってしまった」、つまり誰からも強制されない、「パラダイス的新鎖国時代」になってしまったように感じたのだった。(略)
携帯電話やブロードバンドなど、生活に密着した技術の部分では、もうアメリカより日本のほうが進んでいると見える。わが家の8歳の息子でさえ、駅にずらりと並んだハイテク自販機や自動改札を見て、「日本のほうが技術が進んでる」を持論としている。日本の家は相変わらず狭いけれど、一歩外に出ればものすごい量の商品の並ぶ店やおいしいレストランがいくらでもあり、公共サービスも充実してきたし、一時ほどモノの値段も高くない。

僕もここ数年、日本とアメリカの関心の方向が全く違う方向に向かっているのを感じ、そういう指摘をしてきたが、「生活密着の技術革新」「リアル社会のIT化」「インターネットのこちら側」について、日本は驚嘆すべきペースで進化を続けている。日本に数ヶ月ごとに行くたびに、こういう面での日本の進化のすさまじさ、アメリカの変わらなさ加減を対比して、差は広がるばかりだな、違いは際立つばかりだな、と思う。

私が中学生の頃にアメリカかぶれになったのは、その頃日本と比べてアメリカが圧倒的に素敵なところに見えたからだ。(略) 私よりも先輩の世代と比べればまだ大したことはないが、それでも生活レベルの差があり、アメリカに行くことはとてもお金がかかる大変なことで、「憧れ」の対象であった。それが原動力になって、一生懸命英語を勉強して、高校でアメリカに交換留学に来た。その後ヨーロッパやアジアを放浪して歩いたのも、アメリカの原体験で培われた「外国」「異郷」に対する憧れが原動力だった。

同世代の僕などはこんな文章を読むと、自分もそうだったなと懐かしく思うわけだが、今の日本の若い世代はこんなふうには思わないのだろう。
ドックイヤーという言葉があるけれど、それはある産業におけるホットなエリアの渦中にいると、時間の感覚が狂ってしまうことを意味している。日本におけるドックイヤー的世界とアメリカにおけるドックイヤー的世界は著しく異なっている。
Wired誌8月号
http://www.wired.com/wired/index.html
は、「10 Years That Changed the World」という大特集。ネットスケープIPOが1995年8月。つまり十年前だったので、今こういう特集が組まれた。アメリカは、2001年から2002年までは少し失速したが、「インターネットのあちら側」をフロンティアと見極め、そこを深堀りし続けており、そこでは相変わらずドッグイヤー的世界が継続している。そのことを実感できる特集である。ネット上でだいたい全部読めるはずなので、目を通すと面白いと思う。
中でもKevin Kellyが書いた「We Are the Web」
http://www.wired.com/wired/archive/13.08/tech.html
の後半部分、特に「2015」という小見出し以降の「10年後の姿」を夢想する部分は、アメリカ的「次の十年」の感覚をよく感じ取ることができると思う。日本で考える「次の十年」とはかなり感覚が違うはずである。たとえば日本の人たちの多くは、グーグルにほとんど興味を抱かない。それはドックイヤー的世界における日米の違いをとてもよく象徴している。
Business Week誌「Revenge of the Nerds -- Again: Google and Yahoo! are hiring away hundreds of top engineers from high tech's most prestigious firms」
http://www.businessweek.com/technology/content/jul2005/tc20050728_5127_tc024.htm
は、GoogleYahoo!に「IT産業」のトップ人材が移行しているアメリカの今を報告しているが、こういう感じは日本にはほとんどない。これまでの日本のIT産業の発展を支えてきた人材の多くが、相変わらず「生活密着の技術革新」「リアル社会のIT化」「インターネットのこちら側」(インフラ、機器、デバイス等)におけるイノベーションの実現に邁進しているからだ。