オープンソース開発者はロックスター?

4日前に書いた「「オープンソース開発者の7割がヨーロッパ」は本当? 」
http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20050516/p1
の内容が今も気になっている。マイクロソフトのバルマーへの質問者(記者)の質問の中に「200万人のオープンソース開発者のうち、7割がヨーロッパ、7割が25歳以下」とさらりと書いてあって、この数字のソースがよくわからないからだ。
ただ4日前のエントリーを読んだ友人たちからは、「そうねぇ。確かにオープンソース関係で付き合い始めた相手に、ヨーロッパ人、多いなぁ」とか「ヨーロッパは、30歳くらいまで働かずに大学にいる連中がものすごく多いものねぇ」とか、そういう声が聞こえてきた。僕も「ヨーロッパ7割」はちょっと多いかもしれないけれど、アメリカ比率が低いことだけは確かだなということははっきりとわかってきた。そしてこれはもの凄く重大なことなのだと、遅ればせながら気づいたのである。
IT産業やソフトウェアの世界は、これまで完全にアメリカの価値観でドライブされてきた。そしてオープンソース・ムーブメントもアメリカから発したから、アメリカ的価値観のバイアスがかかった議論が自然と多くなる。
アメリカにしかソフトウェア産業はない」はid:hyoshiokの持論であるが、「ソフトウェア産業があるアメリカの開発者」にとってのオープンソースの意味と、「ソフトウェア産業がない国々の開発者」にとってのオープンソースの意味は、180度違うのである。特にアメリカにおけるここ30年のソフトウェア産業は、一攫千金の可能性を秘めた世界でもあった。そこに登場したオープンソースという存在に対するアンビバレントな感覚が、アメリカでの議論の底流にある。
さて、そこでヨーロッパだ。すべて先進諸国。生活水準も教育・文化レベルも知的レベルももの凄く高い。でもソフトウェア産業はない。そういうところの「25歳以下」の人々にとってのオープンソースっていうのは、ソフトウェア産業や一攫千金に対するオルタナティブではなく、無から生まれた知的表現活動の可能性なのである。
そう考えていって、ふと、この「Open Source Developers Are Rock Stars: Rock stars get where they are in the music world by being great musicians; open source rock stars get where they are by writing」
http://linux.sys-con.com/read/49072.htm
という文章を最近読んだのを思い出した。

Open source developers are the rock stars of the software world. The parallels actually go pretty far. You can say they don't get the money and fame, but I think you're wrong. The average open source developer probably makes more at his or her job than most local musicians make.

They're also usually the most talented developers. Rock stars get where they are in the music world by being great musicians; open source rock stars get where they are by writing great code.
Naming their projects is a lot like naming their bands. When you hear people talking about Subversion, Ethereal, or Excalibur (all open source projects), it's hard to tell if they mean software projects or rock bands.

この文章をアメリカ的価値観から読むのと、非アメリカ的価値観から読むのとでは、印象が全く異なるので、是非試してみてください。
一攫千金のソフトウェア産業もない、ソフトウェアを書くことで得られる楽しい仕事もほとんど存在しない国々においては特に、オープンソース開発者とロックスターを併置することがすごくしっくりと来るのである。そしてオープンソース・プロジェクトがロックバンドならば「25歳以下が7割」というのもうなずける。
こういう全く新しい力(これまでのIT産業の内部には全く存在していなかった知的パワー)が大挙して登場し、アメリカ中心のIT産業に多大に影響を及ぼすのが「これからの10年」の一側面なのである。