Wisdom of crowds

これからのネット世界を考える上で「Long tail」と並んで重要なコンセプトだと思うのが「Wisdom of crowds」である。

約1年前にこの本が出版され、以来色々なところで多くのことが書かれている。本が出版された直後に書かれたのが、山口さんのBlog「H-Yamaguchi.net」のこのエントリーである。
http://www.h-yamaguchi.net/2004/06/the_wisdom_of_c.html

本書の主張は、ひとことでいえば、「適切な状況の下では、人々の集団は、その中で最も優れた個人よりも優れた判断を下すことができる」ということである。適切な条件とは、
(1) 意見の多様性
(2) 各メンバーの独立性
(3) 分散化
(4) 意見集約のための優れたシステム
であり、これらが満たされれば、個々のメンバーが正解を知っていなくても、また合理的では必ずしもなかったとしても、グループのほうがよいという。

Wisdom of crowds」に興味のある人はまずこの山口さんの解説を読むといい。1月初めにこの本を読んで勉強していたときのメモに、
http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20050110/p7
その他の参照先も列挙してある。
また渡辺千賀Blogでも、「サーチ・独立・株式市場ー1」
http://www.chikawatanabe.com/blog/2005/04/post.html
というエントリーがあり、Scientific American誌の「Common Sense」という論文を紹介しつつ「Wisdom of crowds」の話が展開されている。

さて、「独立し」、「分散して」、「それぞれが勝手な理解の仕方をする」ものといえばインターネット。記事は、人気投票に似たGoogleのサーチが意味のあるランキングを生み出せるのは、その対象のインターネットがこの3つの条件を満たしているから、IMHO(in my humble opinion)では、と締めくくられる。

山口さんがまとめる「(1) 意見の多様性、(2) 各メンバーの独立性、(3) 分散化」と「 「独立し」、「分散して」、「それぞれが勝手な理解の仕方をする」」が同じ意味で、GoogleのPage Rankが、まさに「(4)意見集約のための優れたシステム」になっているのだと考えればいいだろう。ちなみにScientific Americanの論文は、
http://www.sciam.com/article.cfm?articleID=00049F3E-91E1-119B-8EA483414B7FFE9F&sc=I100322
で読める。GoogleのPage Rankを「Wisdom of crowds」集約システムととらえる見方については、
http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20050110/p7
の中に著者James Surowieckiの主張の重要部分を引用しておいた。さらにその先の「(4)意見集約のための優れたシステム」として、山口さんは「市場」に注目する(書かれたのはほぼ1年前だ)。

今私が注目し研究テーマとしているのは、意見集約システムとしての「市場」である。市場では、さまざまな意見をもった独立な参加者が、それぞれの利益のために取引を繰り返す。その結果成立する価格は、その参加者たちが「集団」として下した価値判断の結果である。ここでは、最終的な判断が割れることはない。評価額がちがえば、裁定取引が起きるからである。そして最大のポイントは、それが市場であるがゆえに、そこからの「利益」(たとえそれが仮想であったとしても)を最大化するために、他人の意見と自分の意見をすり合わせるインセンティブが自然に働くということだ。
このようなしくみを将来予測に用いることができる。つまり将来に関する予測を、「仮想市場」における「仮想先物」として取引するのである。たとえばNewsFutures社のサイトでは、「明日の日経平均は今日に比べて上がるかどうか」といった予測問題が取引され、また「Foresight Exchange」では、「2036年までに人間型ロボットが実用化される」といった予測問題が「予測先物」として取引されている。このような「予測市場」は、さまざまな意見を持つ人々から効率的に「集団知」を導き出す道具になるのではないかと思われる(近々日本でも予測市場の実験が始まる。乞うご期待)。

実に面白い。そしてその後も「予測市場」についての山口さんの考察は、
http://www.h-yamaguchi.net/cat1872818/index.html
として地道に展開されてきた。大統領選やアカデミー賞を「Wisdom of crowds」がいかに的中させてきたかなど、このBlogの「予測市場」というカテゴリーを時系列にじっくりと読んでいくと大変面白いのである。「H-Yamaguchi.net」のサイドバーには「予測市場」関連リンクもある。「Wisdom of crowds」や、その意見集約システムとしての「予測市場」に興味を持つ人にとって、山口さんのBlogは素晴らしいエントリーポイントを提供している。
ちなみに、昨年末に「フューチャー・オブ・ワーク」という本を勉強していたときのメモ
http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20041214/p7
を振り返ると、この本の中でも、予測市場のことがかなりの分量を割いて語られている。
こちらは既に翻訳も出ているので、興味のある人は読んでみられたらいいと思う。

フューチャー・オブ・ワーク (Harvard business school press)

フューチャー・オブ・ワーク (Harvard business school press)

さて、僕のはてなブックマーク
http://b.hatena.ne.jp/umedamochio/
には、いずれ参照したいと思うかもしれないもの、ちょっと気になったものは、全部放り込んであるのだが、そこをゴチャゴチャやっていたら、
http://archives.trblogs.com/2005/03/yahoo_oreilly_h.trml
こんな記事が見つかった。

At the O'Reilly E-Tech conference in San Diego this morning, O'Reilly's Rael Dornfest and Gary William Flake of Yahoo! Research Labs announced a collaboration that draws on this concept in an effort to predict technology trends. Their joint project, the Tech Buzz Game, went online today. It gives tech-heads with a gambling bent another place to try out their forecasting skills, and their aggregate opinion about coming (and going) trends could eventually translate into intelligence that companies and the media can translate into action, Dornfest and Flake said.

オライリーとヤフーが、「Tech Buzz Game」という実験を始めているのである。
http://buzz.research.yahoo.com/bk/index.html

The Tech Buzz Game is a fantasy prediction market for high-tech products, concepts, and trends

ちゃんと何かを予測できるだけの盛り上がりを見せているのだろうか。
あと、著者James Surowieckiの最近のスピーチ内容のメモがここ
http://waderoush.typepad.com/twr/2005/03/james_surowieck.html
で読めるようだ。