ソニーのトップ交代についてFORTUNE誌はどう報じたか

さて今日のテーマは、ソニーのトップ交代についてFORTUNE誌はどう報じたか、ということについて。
日本企業に長く勤めたり、日本と長く付き合っているアメリカ人の特徴として、良くも悪くも「日本」に慣れていくということがある。それが日本人と接するときの英語に現れてくる。一言でいうと、日本人相手に彼等はあまり刺激的なこと、面白いことを言わなくなるのである。難しいウィットに富んだ表現は理解されないという経験から来ている面もあろう。それゆえ、ネイティブ同士で話している内容を聞くと、これが同じ人間なのか、と思うこともある。
何が言いたいかというと、ソニーについて英語で発信される記事にはこれまで以上に注目したほうがいい、ということだ。何せCEOはアメリカ人になり、月の半分、彼はアメリカにいるわけで、アメリカで英語で、彼は周辺の人たちに思いのたけをしゃべっている。アメリカ人の選ばれた記者たちには、オフレコを条件に、彼の本音が伝わっていくのだと考えていいからだ。

久夛良木氏への言及はそれほどない

今日ご紹介するFORTUNE記事「Inside the Shakeup at Sony
http://www.fortune.com/fortune/ceo/articles/0,15114,1039659,00.html
が、そういう意味で、ストリンガーやその周辺へのきちんとした取材がなされた結果書かれた記事かどうかはわからない。ただ、

The board also agreed that all the other insiders, including Ando and Idei and Kutaragi, should leave the board, and that Stringer should be given the authority to nominate two more insiders after he takes over the helm on June 22. In the end, then, Idei got his way.

ソニーの取締役会は、ストリンガーに、CEO就任後、2人の取締役を選任する権限を与えた」なんて詳細な話も書いてあるから、ある程度はインサイダーへの取材がなされた記事だと思うし、この時期にかなり長文の記事が出ているわけで、日本で書かれた記事とそこに際立った違いがあるとすれば、それは何なのかを知っておくことに、少しは意味があろう。
こういうトップ交代の記事など、いずれにせよ「羅生門」の世界になる。ただ誰がどういう立場でどうモノを見るのか、という点で参考になる点はあるかと思う。
日本でたくさん書かれているソニーについての記事をすべてフォローしているわけではないが、久夛良木健氏の個性が日本では非常に珍しいので、その話をテコにした記事が多い気がする。でもアメリカにはもっと強烈な人たちがたくさんいるからかと思うが、久夛良木氏の個性への言及にはそれほど力がこもっていない。

Kutaragi, a brilliant but obstreperous engineer

「素晴らしく頭のいい、でも手に負えないエンジニア」と書かれているが、そういう人がたくさん活躍するのがアメリカ社会なので、取り立てて大騒ぎもしない。スティーブ・ジョブズとアップル社内で一緒にエレベータに乗り合わせたアップル社員が、「今お前は何やっているんだ? 」とジョブズに聞かれて、答えているうちにエレベータが到着階に着いたが、その瞬間、ジョブズから「クビ」を言い渡された。なんて話は、真偽のほどはともかく、枚挙にいとまがないからである。

大賀氏と出井氏の確執

僕がこの記事を読んで驚いたのは、大賀典雄名誉会長と出井会長との間の確執に、思いの他、たくさんの行数が費やされていることだった。

Ohga seemed especially chary of acquisitions and divestitures, shooting down Idei's plans in the 1990s to try to buy Apple Computer and later Palm Computing. Insiders say that during Idei's early years, Ohga seemed jealous of his protégé's success in turning around movies and of his ability to strike a higher profile in world business circles. (Ohga declined to be interviewed for this story.)

出井がアップルやパームを買おうとしたのを阻止したのは大賀。

And Ohga's subtle interference didn't stop after he gave up the CEO title in 1999. In 2002, Ohga was instrumental in scuttling plans to sell the Sony Life Insurance subsidiary to GE Capital for about $5 billion, even though the board and Idei had already signed off on the deal. Says one director: "There was an organized revolt by the employees and the management of the insurance company, and some key Sony senior executives opposed it too, even though the board had approved the sale. In American terms, that would have been enough. But after they won the support of Ohga, it was shot down—summarily dismissed, actually. Losing the chance to raise $5 billion was bad enough, but worse, it sent the message to the organization that 'It's okay, nobody gets penalized if you resist Idei.' "

出井のソニー生命をGEキャピタルに売却する計画を阻止したのも大賀。しかも従業員の反抗を大賀が支持したことで、出井に反抗しても大丈夫、罰せられることはないのだ、というメッセージが社員に向けて発せられた。このあたり、解釈が実にアメリカ流だという気もする。
そして、この記事の最後は、こんな文章で締めくくられている。

And what about honorary chairman Ohga? He isn't talking either. But at age 75, he still comes to the office nearly every day. Some things never change.

大賀は75歳でほぼ毎日会社に出てきている。「Some things never change.」。ある種のことは何も変わっていないのだ、と。
かなり不思議な読後感の記事であった。この不思議な読後感の意味は何なのだろうという疑問を頭の片隅に残しつつ、今後のソニー英文記事には注目していこうと思う。