「ウェブで学ぶ」という本を書いた背景について
私がこの本を書きたいと思った理由はただ一つ。
日本語圏のウェブ世界からはまったく見えない大変化が、世界では着実にしかも急激に起きていることを、皆さんに知ってほしかったからです。
本書共著者の飯吉透さんとは、彼がシリコンバレーのカーネギー財団に勤めていた頃、お互い近所に住んでいたということもあり、『ウェブ進化論』以後のグローバルなウェブ進化について、定期的に意見交換を続けてきました。
その過程で、日本人である彼が、アメリカ発グローバルのオープンエデュケーションというムーブメントの中核にいて、その背景となる思想ばかりでなく、そこで実際に起きていることの詳細なリアリティを把握していることを、深く知るにいたりました。
この数年、飯吉さんがオープンエデュケーションの研究、普及、啓蒙の仕事に邁進され拠点をMITに移す中、私は相変わらずシリコンバレーに住み、「グローバルウェブという補助線を引いてウェブ世界を構造化しなおす」という思考実験を続けていました。
「インターネットとはそもそもグローバルなものなのだ」という常識があります。しかし、その常識から離れて虚心にウェブ進化の現実を眺めたとき、インターネットが広く人口全体に普及する段階においては、ローカル性がグローバル性を凌駕するのがむしろ自然だと考えるべきだろう。徹底的にグローバルを志向するムーブメントのほうをこそ「特別なもの」と見る必要があるのではないか。次第にそう考えるようになりました。
シリコンバレーでもこの仮説に基づいて議論を続けてきたのですが、あるとき友人からこんなメールが届きました。
「自然過程にゆだねるとローカルになるというのは、言われてみればその通りですね。シリコンバレーにいると、ついグローバルが普通だと思ってしまいがちですが……」
私もまったく同じで、シリコンバレーに住んで一五年が過ぎ、ウェブ進化を「グローバルが普通だと思ってしまいがち」な目で眺めていたことを再確認したのでした。
むしろ「自然過程にゆだねるとローカルになる」ウェブ進化において、それに抗してグローバル志向を貫くもの(グローバルウェブ)をこそ「特別なもの」と位置づける。そんな発想からウェブ進化を見つめなおした現段階での私の結論が、本書第一章の内容となっています。
次に、では私たち日本人がグローバルウェブの本質を考えるうえで最適な題材はいったい何だろうか。そんな問いを立てました。そのとき、飯吉さんの顔が頭に浮かんだのでした。
そうか、オープンエデュケーションの世界で起きている現実こそが、グローバルウェブの本質をよくあらわすものなのだと。
冒頭で「日本語圏のウェブ世界からはまったく見えない大変化」と書きましたが、「日本から見えない」ということ自身がまた、グローバルウェブの本質をよくあらわしているとも言えるのです。
本書は、飯吉さんのオープンエデュケーションに関する知識や経験から私自身が学んでいくプロセスを対話の形で公開するのはきっと価値が大きかろうと考えて、企画しました。・・・・・
ウェブで学ぶ ――オープンエデュケーションと知の革命 (ちくま新書)
- 作者: 梅田望夫,飯吉透
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2010/09/08
- メディア: 新書
- 購入: 312人 クリック: 4,477回
- この商品を含むブログ (144件) を見る
三日ほど前に、この本の見本が五冊シリコンバレーに届きました。ちょうどシリコンバレーに出張でやってきた友人に一冊進呈しました。「●●様 梅田望夫」と本にサインをするとき、通常、●●のところには贈る相手の名前を入れるわけですが、この本については、14歳になる彼のお嬢さんの名前を入れました。本書は、一人でも多くの、これから学ぶ若い人たちに読んでほしいと思っている本だからです。子供向けに書いた本ではありませんが、学ぶ環境をこれから選ぶ十代の人たちにこそ、是非読んでほしいと思っています。
はじめに(飯吉透)
第一章 ウェブ進化が人生を増幅する(梅田望夫)
人生を切り開いていくための強力な道具/「知の宝庫」たるウェブ/「師」や「同志」との出会い/職を得る、生計を立てる道筋へ/「経済のゲーム」と「知と情報のゲーム」/グーグルと中国/グローバル展開への強烈な意志/グローバルウェブを牽引する三つの力/グローバルウェブとオープンエデュケーション第二章 オープンエデュケーションの現在(飯吉透)
ウェブによって生まれ変わったオープンエデュケーション/オープン・テクノロジー、オープン・コンテンツ、オープン・ナレッジ/ローカルからグローバルへ/オープンエデュケーションが続々と生み出す教育界の「ウェブ・スター」たち/カーネギーメロン大学の挑戦/初等・中等教育への浸透/「格差超越装置」としてのオープンエデュケーション/オバマ大統領の”オープンエデュケーション宣言”/「オープン・テキストブック」による教科書の無料化・低価格化/見え始めた「より開かれた二一世紀の大学」の新たな姿/牽引力としての民間財団の存在と社会的フィランソロピー精神/教育の開化・深化・進化 /[コラム]メタ・ユニバーシティとクラウド・カレッジ第三章 進化と発展の原動力
「逆転の発想」から始まったMITオープンコースウェア/「互助精神」「フロンティア精神」「いたずら心」「宗教的信念」/「カリフォルニアン・イデオロギー」と「東部エスタブリッシュメント的なもの」/オープンエデュケーションは独善的?/ヨーロッパにおけるオープンエデュケーション/授業料無料のグローバルなインターネット大学/個人の「狂気」がブレイクスルーを生む/成長段階仮説/オバマ政権とオープンエデュケーション/営利のオンライン大学/国内格差の解消、グローバル格差の解消/オープン・リサーチ、オープン・サイエンス/進化する教科書、オープン・テキストブック/初等・中等教育でも始まったオープン・テキスト化/ビジネスサイドからの新しい教科書出版の動き/[コラム]クリエイティブ・コモンズとオープンエデュケーション第四章 学びと教えを分解する
オープンコースウェアは誰がどのように使っているか/アメリカの大学と「閉じ込めのシステム」/独習者はどのように学んでいるか/[コラム]オープンコースウェアで学んだ土谷大さん/教育と「強制システム」/ウェブと能動性/「テクノロジー」「ナレッジ」がなぜ必要か/「師」や「同志」とどのように出会えるか/学習コミュニティ/学びから職へ/専門的な知識を生かして社会貢献する/セーフティーネットとしてのオープンエデュケーション/[コラム]アルゼンチンの地方から世界へ:サンルイス・デジタル構想第五章 オープンエデュケーションと日本人、そして未来へ
「残りのすべての人々のため」の教育?/英語圏と非英語圏で違いはあるか/ロングテール化する教育/日本でのオープンエデュケーションの萌芽/「英語で学ぶ」ために「英語を学ぶ」/キャッチアップ型の学びを超えて/グローバル・プラットフォームの進化がもたらしたインパクト/享受者としてのデジタルネイティブたち/予測不能な未来を生きるために
おわりに(梅田望夫)
ジャックが14歳半になりました。元気です!
今日8月18日で、ジャックは14歳半になりました。
最近は夜、寝る前に毎日、白桃をあげています。それが楽しみで仕方ないジャックは、その時間になると、桃を心待ちにして、ずっと台所を見つめ、冷蔵庫をあけると、待ちかねたとばかりに台所までやってきて、こんな感じになります。
ジャックも歳なので、少しずつ色々なところが弱ってきてはいるのですが、一日のうちどういう時間帯に何をしてあげるとジャックにとっていちばんcomfortableか、ということばかりを考えに考え抜き、こちらがそれに合わせるという、ジャック中心の生活をしているのが功を奏してか、今のところ健康で元気に暮らしています。
過剰なエネルギーで動き続け、隙があれば悪いことばかりをしていた子供の頃も楽しかったけれど、枯れた境地の今のジャックとの暮らしも、なにげないことに大きな喜びがあって、かけがえのない素晴らしい時間だと感じます。
一年単位の誕生祝いだとちょっと間があきすぎるので、半年単位の誕生祝いの記念撮影をしました。
「iPadがやってきたから、もう一度ウェブの話をしよう」(iphone/iPad版)、たった今、発売になりました!
電子書籍「iPadがやってきたから、もう一度ウェブの話をしよう」(産経新聞出版)、ただいまアップル社の検閲審査が完了し、発売となりました。iPad版、iPhone版とも、App Storeで「梅田」で検索すればすぐに見つかります。価格は、iPad版、iPhone版とも450円です。
特に「巻頭特別収録「増える往復書簡」アップルとグーグルの未来――書簡ゲスト 中島聡氏」はボリュームたっぷりである上、発売後も読者からの質問を受けて「増えて」いきます。
どうぞご一読ください。
追記: 発売から約12時間後現在で、iPadのTOP PAID iPad APPSの第三位に入っていました。「GoodReader for iPad」「iBunkoHD」に次ぐ第三位なので、驚きました。ありがとうございます。
まもなく二冊、本が出ます。一冊は紙の本、一冊は電子書籍(iPad, iPhone向け)
サバティカルが明け、まもなく二冊、本が出ます。
紙の本のほうは「ウェブで学ぶ ――オープンエデュケーションと知の革命」(ちくま新書、飯吉透氏との共著)で、9月8日発売です。
ウェブで学ぶ ――オープンエデュケーションと知の革命 (ちくま新書)
- 作者: 梅田望夫,飯吉透
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2010/09/08
- メディア: 新書
- 購入: 312人 クリック: 4,477回
- この商品を含むブログ (144件) を見る
はじめに(飯吉透)
第一章 ウェブ進化が人生を増幅する(梅田望夫)
人生を切り開いていくための強力な道具/「知の宝庫」たるウェブ/「師」や「同志」との出会い/職を得る、生計を立てる道筋へ/「経済のゲーム」と「知と情報のゲーム」/グーグルと中国/グローバル展開への強烈な意志/グローバルウェブを牽引する三つの力/グローバルウェブとオープンエデュケーション第二章 オープンエデュケーションの現在(飯吉透)
ウェブによって生まれ変わったオープンエデュケーション/オープン・テクノロジー、オープン・コンテンツ、オープン・ナレッジ/ローカルからグローバルへ/オープンエデュケーションが続々と生み出す教育界の「ウェブ・スター」たち/カーネギーメロン大学の挑戦/初等・中等教育への浸透/「格差超越装置」としてのオープンエデュケーション/オバマ大統領の”オープンエデュケーション宣言”/「オープン・テキストブック」による教科書の無料化・低価格化/見え始めた「より開かれた二一世紀の大学」の新たな姿/牽引力としての民間財団の存在と社会的フィランソロピー精神/教育の開化・深化・進化 /[コラム]メタ・ユニバーシティとクラウド・カレッジ第三章 進化と発展の原動力
「逆転の発想」から始まったMITオープンコースウェア/「互助精神」「フロンティア精神」「いたずら心」「宗教的信念」/「カリフォルニアン・イデオロギー」と「東部エスタブリッシュメント的なもの」/オープンエデュケーションは独善的?/ヨーロッパにおけるオープンエデュケーション/授業料無料のグローバルなインターネット大学/個人の「狂気」がブレイクスルーを生む/成長段階仮説/オバマ政権とオープンエデュケーション/営利のオンライン大学/国内格差の解消、グローバル格差の解消/オープン・リサーチ、オープン・サイエンス/進化する教科書、オープン・テキストブック/初等・中等教育でも始まったオープン・テキスト化/ビジネスサイドからの新しい教科書出版の動き/[コラム]クリエイティブ・コモンズとオープンエデュケーション第四章 学びと教えを分解する
オープンコースウェアは誰がどのように使っているか/アメリカの大学と「閉じ込めのシステム」/独習者はどのように学んでいるか/[コラム]オープンコースウェアで学んだ土谷大さん/教育と「強制システム」/ウェブと能動性/「テクノロジー」「ナレッジ」がなぜ必要か/「師」や「同志」とどのように出会えるか/学習コミュニティ/学びから職へ/専門的な知識を生かして社会貢献する/セーフティーネットとしてのオープンエデュケーション/[コラム]アルゼンチンの地方から世界へ:サンルイス・デジタル構想第五章 オープンエデュケーションと日本人、そして未来へ
「残りのすべての人々のため」の教育?/英語圏と非英語圏で違いはあるか/ロングテール化する教育/日本でのオープンエデュケーションの萌芽/「英語で学ぶ」ために「英語を学ぶ」/キャッチアップ型の学びを超えて/グローバル・プラットフォームの進化がもたらしたインパクト/享受者としてのデジタルネイティブたち/予測不能な未来を生きるために
おわりに(梅田望夫)
電子書籍のほうは、「iPadがやってきたから、もう一度ウェブの話をしよう」(産経新聞出版)。ただいまアップル社の検閲審査を受けている段階とのこと。中身はもうすっかりできあがっているのですが、アップル社からのゴーサインを待っての発売となります。
特に、「巻頭特別収録「増える往復書簡」アップルとグーグルの未来――書簡ゲスト 中島聡氏」はボリュームたっぷりである上、発売後も読者からの質問を受けて「増えて」いきます。発売が決まったら、改めてご案内します。
こういう記事は勇気づけられるなあ
読売新聞「長寿犬ギネス申請へ…栃木のプースケ25歳」
ギネスブックによると、世界最長寿の犬として認定されているのは、3月現在で豪メルボルンの21歳3か月のオーストラリアンケルピー。また、これまでに最も長く生きた犬は29歳5か月とされている。
プースケは朝晩2回の食事に加え、大好物のケーキのおやつも食べる。庭を歩く程度だが運動も欠かさない。
東京農工大の林谷秀樹准教授(獣医学)は「犬の平均寿命は11・9歳で、25歳は人間では推定125歳。ストレスのない生活の影響では」と話している。
こういう記事は勇気づけられるなあ。
おかげさまでジャックはいま14歳3ヶ月。すこぶる健康で元気に過ごしています。
年をとってくると「人間年齢換算だともうxx歳だなあ」というようなことを考えがちですが、「25歳で推定125歳」というのは、じつに勇気づけられます(もちろん、大型犬と小型犬では若干違うけれど)。
ジャックが「ストレスのない生活」を送っているということだけは、我々もかなり自信のあるところで、これからも維持していこうと思います。
ジャック、長生きしような!